竹仙坊日月抄

トレイルランニング中心の山行記やレース記、その他雑感が主です。藤沢周平が好きです。

泥々のプラス25分ー美ヶ原トレイルラン2017レポート5

美ヶ原トレイルラン2017のレポート第5段です。
長門牧場で20分ほど休んでから、霧の中へ吸い込まれるような感覚でスタートしました。
目指すは大門峠のエイドステーションです。

牧場の回りは、これから進む央分水嶺トレイルの森の木々に取り巻かれていますが、今日はうっすらとシルエットしか見えません。
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この森に入る手前で雨が土砂降りになりました。
急いで森に逃げ込みますが、大量の雨粒が森の木々の傘をすり抜けてきます。
木漏れ日ならぬ木漏れ雨といったところです。
下半身までずぶ濡れになり、体が冷えていくのを感じました。

足元は一言で言えば泥沼でした。
山道一面が泥沼なのです。
写真を撮ればよかったのですが、雨具をリュックの上から着込んでいてスマホがすぐには出せなかったのと、落としたときの被害の大きさとを考えて、しばらくはスマホを出すのを控えました。
とにかく泥の中に突っ込んでいくしかない状況なのです。
私は、マラソンにハマった!!!、というブログが好きでよく読んでいるのですが、その著者の方も今回出場していました。
レポートのなかに、足場を選ぶよりもジャブジャブ突っ込んだ方が速いというような記述がありますが、まさにその通りで、そもそも足場になるような場所すらないのです。
また、私はこのとき左アキレス腱の違和感が痛みに変わっていたのと、両足の内くるぶし回り、アーチの頂点あたりの痛みが強くなっていて、走るのをやめていました。
そもそもあんまり走ってなかったじゃん、と言われたらその通りですが、長門牧場からの中央分水嶺トレイルはフラット多めの下り基調で、本来ならば走りやすいエリアです。
しかし、今回は色々な意味で足元が悪く、ほとんど走れません。
それでも昨年比2時間の余裕(長門牧場出発時で1時間50分に減ってました)があるので、食いつぶしながら進む肚を決めました。

降りやまぬ雨の森をトボトボ、グチャグチャ進んでいきます。
もう靴を履いているのか泥を履いているのかわからないくらい、泥沼そのものを進みます。
少し水分の少ない場所では、ランナーが作った轍のようなものができていましたが、これがまた奇妙な形をしていました。
写真がないのがつくづく残念ですが、道の真ん中だけが馬のたてがみのように10cmほど盛り上がっているのです。
2本の凹みの真ん中に薄く盛り上がりがあるのが通常の轍だとすると、脇の凹みがなく、真ん中だけが盛り上がっていました。
泥が踏み寄せられて高く盛り上がったのでしょう。
ランナーの右足と左足の間隔が、そのたてがみの幅にあたるようです。
粘りけの強い土だから出来る轍なのでしょう。
面白いものを見たと思いますが、このあとどうやって復旧させるのか心配でもあります。

コースは女神湖の付近で一瞬ロードに出ますが、すぐにまたトレイルに戻ります。
そのトレイル入口に、恒例の前橋トレラン部私設エイドが出ていました。
この私設エイドにはいつも助けられています。
昨年はここでコーラかなにかもらって、熱中症気味のフラフラ状態から息を吹き返しました。
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今年は体が冷えていたこともあり、カレーライスを少しと温かい紅茶をいただきました。
本当にありがたいです。
ごちそうさまでした。

その後も泥沼のトレイルは続きますが、少しずつ状態はよくなっていきました。
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このあたりに来ると、沼に踏み込まなくとも進むべき足場があります。
14:30を過ぎて雨も少し弱まり始めました。
また、エイドで少し気が緩んだのか、少し集中力に欠けるサインが出てきました。
そんな時は写真を撮るに限ります。
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何度も見ているのに名前を知らない花。
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水分の少ないネチョネチョな泥の道。
このタイプの路面が一番バランスを崩しやすかった気がします。
それなりに固さがあるので、踏み込んでもグリップが効くまでソールが食い込まないのです。
こういう場面でも、ヤマケンの「俺は忍者!」は、こけないようにバランスを保つのに役に立ちます。
今回それに加えて「忍者ミネヒロ」なるキャラを作り上げて、万全を期しました。
ミネヒロとは、プロトレイルランナー・横山峰弘さんのことで、忍者と結びつけたのは初回UTMFのドキュメンタリーを思い出したからでした。
2012年のUTMFを追ったドキュメンタリーで見た、手術した足に痛みを抱えた横山さんは、着地による負担を軽減するために、小さいステップを刻み続けていました。
その姿を思い浮かべて、足をチョコチョコ動かしステップを刻んで軽く走ったりしました。
痛みの程度は違うと思いますが、今の私にもちょうどよい走り方でした。
そして、こういうときはもれなく脳内ミュージックの登場です。
忍者ミネヒロただ今参上!テケテン♪山を越え…
てな感じで、往年の忍者アニメの主題歌がループしていました。

往年と言えば「風雲たけし城」という番組を知っている方ならわかるかもしれませんが、竜神池、というアトラクションを覚えているでしょうか。
飛び石で池の対岸に渡るのですが、飛び石の中に水に沈むハリボテが混じっていて、それを踏んでしまうと水に落ちてしまうというアトラクションです。
今回、その竜神池か!というような場所がトレイル上に現れました。
そこは中央分水嶺トレイルの終盤で、雨が降っていなくとも例年薄く水没しているような、平坦な湿地帯のトレイルでした。
しかし、今年はその湿地に大きな木のブロックが飛び石のように設置されていました。
前日の説明会で聞いていたため、実物を見たときは竜神池みたいだなと思ったものの、通りやすくなるんだなと安易に考えていました。
むしろ、毎年普通に走れるところの方が難所だったな、逆転してるなと思ったほどです。
距離にして50m強でしょうか。
ブロックを伝っていけばすぐ終わると思っていたら、そうは問屋が卸さなかったのです。
なんと、踏んだブロックがザブンと水に沈んでしまうのです。
全部がそうではありませんが、恐らく設置時よりも水量が増えて浮いてしまったのでしょう。
竜神池、もしくは千葉県野田市清水公園の水上アスレチックのようです。
幸い私は体重が重いので、浮き上がるブロックを押さえつけることができますが、これも慎重にやらねばバランスを崩して水にドボンです。
大変なことになってはいましたが、このとき私の顔は恐らく笑顔だったのではないかと思います。
不惑目前になってもこんな遊びができるなんて、楽しくて仕方がありません。
忍者ミネヒロの効果もあり、無事にリアル竜神池を乗り越えて、大門峠に向かうこの区間最後のアトラクションもとい難所に向かいます。

いわゆる激坂と呼ばれる坂はどのレースにも多少はあると思いますが、そのなかでも私は、この美ヶ原トレイルランの大門峠付近の激登りが大好きでたまりません。
去年、私はこの区間を関門時間に追われながら走っていました。
熱中症寸前で気力体力に難があり、走ることができなくなっていました。
竜神池からのトレイルを終えて、ロードの橋を渡るとすぐに登りトレイルに入り、少し進むとその坂にたどり着きます。
難所に燃えてしまうトレイルランナーである私は、2年前の初参加の時に、雨で泥の滑り台と化したこの激坂を登る楽しさに、ガッチリ捕まってしまいました。
標高差にして100mないのですが、斜度が激烈のため時間がかかります。
ここを一息で登れたら、私はきっと強くなる。
そういう感覚を覚える坂なのです。
実に走りたくなる坂である~、というのは物理的に無理なのですが、全力をぶつけるのにふさわしい坂です。
昨年は、足元が乾いていたため、この坂を一息で登ることができました。
そこで本格的に息を吹き返したのです。
一言で言うと、スイッチが入りました。
そこからは元気が戻ってきて、大門峠を関門時刻5分前に通過し、危なげなくフィニッシュに至りました。
今年はまた雨の影響でアトラクション状態なことは容易に想像がつきますが、アトラクション上等、難所上等、どんとこいなのです。
今年もここでまたスイッチを入れたいのです。

長かった雨は、激坂手前のトレイルでやみました。
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15:30より少し前でした。
木漏れ雨が退き、木漏れ日が強く射しています。
そしてお待ちかねの激坂、またの名を泥壁地獄とかマッディウォールとか呼ぶとか呼ばないとか、満を持して登場です。
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ここはとりつきの写真なのですが、斜度が半端ないことがわかるでしょうか。
写真が撮れるような状況はここでおしまい、後は全力で登るのみです。

この坂を安全に登るには、コース取りに秘訣があります。
ロープが垂らしてあるのですが、とくに坂の下部ではロープ周辺の足場が悪くなることが多いので、できるだけ避けた方が無難です。
トレイルの右端や左端は比較的足元がしっかりしているため、ときには坂を横断するなどして、うまく足場を見つけながら進んで行くのがおすすめです。
今年は泥の壁になっていたこともあり、足場探しに難渋しました。
一息で登りきるというわけにはいきませんでしたが、それでも楽しかったです。
ここでも私は薄笑いを浮かべながら進んでいたのだと思います。
難所、とくに激登りは大好物です。
今年もスイッチが入りました。
坂の頂上からA6大門峠までの下りトレイルを快調に走り、15:55にエイドインしました。

長門牧場からここまで2時間20分かかりました。
昨年は、熱中症でフラフラになりながらも、1時間55分で大門峠にエイドインしていました。
このプラス25分の原因は、足の痛みと泥沼とで、まともに走れなかったことにあると思います。
激坂にも時間をかけてしまいました。
雨が強くて体が冷えたことも、スピードが落ちた要因でしょう。
ただ、下半身が冷えたことでお尻の筋肉の張りがやわらいだのはあながち悪くなかったと思います。
体調自体は非常によく、昨年のフラフラでヘロヘロな状態とはほど遠く、快調だったとも言えるのですが、時間は余計にかかってしまいました。
要は、どんなにか快調でも、走らなければ時間はかかってしまうということのようです。
昨年の体調は最悪でしたが、足の痛みはなく、足元も普通のトレイルだったため、走れるところは走っていました。
長門牧場に向かう林道でタイムを落としたのも、同じことです。
タイムは走った距離にしか応えないのです。
しかし、タイムは落としても、体調よく進めていること自体が大きな喜びであることも確かでした。
おめでたいものです。
普段から私は、私自身をおめでたい人間だと思っていますが、山では拍車がかかってしまいます。
大門峠でも10分ほど休み、16:05にフィニッシュに向けて出発しました。

長門牧場のマイナス6℃ー美ヶ原トレイルラン2017レポート4

美ヶ原トレイルラン2017レポートの第4段です。
本来ならばA4だったはずの和田宿で脚と足のケアのため、30分の大休止を決定しました。

ここまで32,3km走ってきて、足回りに痛みが出てきました。
私はやや内股でいわゆるオーバープロネーション気味の着地をするため、内くるぶし周辺を痛めることが多いのです。
この日も長門牧場からの下りで痛みが強くなり始め、アキレス腱にまで痛みが及んで来ていました。 バドミントン部だった高2の時に同じ故障をやらかしているのですが、その時の痛みというか強い違和感がよみがえっています。
エイドでともかく、名物の蕎麦とすあまをいただいてからトイレを済ませて、ケアタイムに入ります。最低でも10分はマッサージすると決めて、脚と足のケアをしました。
ケガも明けていないのにレースで走ると、それなりの無理があるようで、硬い脚と足の筋肉を押す手がだいぶ疲れました。
しかし、痛みがあるとはいえ、残り時間は10時間以上あり、歩き通してもフィニッシュはできます。
途中までちらついていたリタイアの選択肢を、ここで捨て去りました。
水を補給・補充して、雨の様子を確かめてからいったん雨具を脱ぎましたが、直後にザーッと降りだしたため慌てて着直すようなこともありました。
このあと長門牧場まで、雨具の着脱を繰り返すこととなるのです。

9:40に和田宿を出発して、すぐに水沢峠越えにかかります。
水沢峠の山道は標高差100mほどですが、距離が短いため急登・急降下となります。
下の方の沢と並行する区間は斜度がさほどきつくないのですが、沢から離れて道なりに左へ向かう所から勾配がきつくなります。
それでも距離は短いため、すぐに登り終えて少し尾根を走ると下りに差し掛かります。
今年はこの下りの途中で試練がありました。
尾根から斜面をトラバースして下りる急勾配の道があるのですが、この道が泥沼化してほぼ崩壊しているのです。
滑落上等なトレイルコンディションで、難儀したランナーで小さな渋滞ができていました。
転ぶ人や尻餅をつく人が続出して 軽い地獄のようでしたが、何かのアトラクションに見えなくもありませんでした。
泥坂地獄とかマッディスライダーとか、勝手に名前をつけて楽しんでしまえばいいのに。
でも、こけたら悲惨きわまりないので、少々不謹慎かもしれません。
ヤマケンの、俺は忍者!を思い出してこけないようにステップを刻みながら、泥坂地獄(仮)をなんとか乗り越えました
そこからは、ややまともな斜面を入大門の集落に向けて下りていきます。

本日2度目の通過となる入大門の集落に入り、長門牧場への林道に向かいます。
途中で民家の雨樋から落ちる雨水を借りて、靴の泥を落としたり手を洗ったりして、少しだけリフレッシュしました。
雨は降り続いていて、12時くらいにピークを迎えるとの予報もありました。
往路の印象では、木々である程度雨がしのげそうに思えたため、なるべく早く林道に逃げ込んでしまいたい気持ちがありました。
柄になく急ぎます。
ちなみに、入大門から林道入口までのこの区間は、昨年熱中症ギリギリの状態でフラフラになって歩いていた区間でした。
あまりの辛さに、林道の入口でひっくり返ってしまった思い出があります。
暑かったのです。
昨年のレースの最高気温は29℃(諏訪の記録)で、標高の低い和田宿~入大門は、蒸し暑くてとても辛かったのです。
今年は23℃(諏訪。予報は26℃)で、しかも雨、ひっくり返ったらシャワーを浴びるような感じになったでしょう。
林道の登り返しにさしかかった時刻は定かではありませんが、今年は意識ももうろうとせずに進むことができています。

この林道の登りは、長門牧場まで10kmと言われています。
傾斜は緩いので走ろうと思えば走れるのですが、今日の脚は消耗品のため、なるべく走らずに進みます。
この膝にやさしく大作戦は、なかなかうまくいっていましたが、林道の歩き時間が長くなると、別の問題が起きてきました。
お尻の筋肉に張りが出てきてしまったのです。
この日は試みとして、鉛直意識の骨盤始動歩行を徹底していました。
山と渓谷の膝特集の号(たぶん2017年3月号)で、小川壮太さんが解説していた歩き方です。
ここ数ヵ月実践していた方法でしたが、この日も地道にやっていました。
楽に脚が運び出せてよかったのですが、さすがに10km近くも歩き続けると、お尻の筋肉がかなり張ってきてしまいました。
すると脚の運びも悪くなります。
尻も消耗品のようです。
しかたないので、時おり走ってお尻の筋肉をほぐしながら進みました。

和田宿から2時間近く経ったこの頃になってくるとだいぶ集中力が落ちて来るため、なにか食べたり、写真を撮ったり、無駄に雨具の着脱をしてみたり、あらゆる手でリフレッシュを試みます。
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花を撮ったのも半分は刺激を入れるため。
私の場合、単調な作業の繰り返しで集中力を損ねる傾向があり、心身に異なる刺激を入れないことには、パフォーマンスを取り戻すことができなくなります。
この日のそのあたりのコントロールは、そこそこうまくいっていました。

本日2度目となる長門牧場林道の分岐を越えると、長門牧場に入ります。
この頃になると、内くるぶし回りの痛みが強くなり出しました。
牧場の引き回しコースと私は呼んでいますが、目の前に見えているエイドまで、4,5km遠回りさせるコースレイアウトは健在でした。
せっかく短縮なんだからここも縮めようぜと思いながら、ゆっくり走ります。
引き回しコースの前半は下りのため、くるぶし、アキレス腱、膝を気遣いながらゆっくり進みます。
そして、馬。
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馬の右奥に見えている建物辺りがエイドなのですが、そこまでは牧場の縁に沿って大回りします。
後半は登りなので歩きになりますが、馬からエイドまで30分弱かかりました。
長門牧場のエイドインは13:15、和田宿出発から3時間35分かけての到着でした。

実は今回、一番の楽しみにしていたのが長門牧場のソフトクリームでした。
昨年レース中に親切な方に教えてもらって食べた味が忘れられず、今年は割り引きになるモンベルの会員証まで持ってここまできました。
ところが、今年の長門牧場は肌寒く、とてもソフトクリームを食べる気分にはなれませんでした。
体温のコントロールも不安定になりそうだったため、今回はパスしました。
去年よりもマイナス6℃の影響はここに出ました。
とは言えここはエイドステーション、お楽しみは色々とございます。
私はここの飲むヨーグルトと牛乳が好きです。
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いつも楽しみにしてます。
出発の準備の前にアルパカの写真を撮りました。
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暖かそうです。
エイドアウトの際に雨具を脱いだら、すぐに降り出しました。
また雨具を着て出発しました。
13:35、エイド滞在は20分。
出発直後に牛。
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ここの牛とは3年連続のお付き合いです。
そして、霧の中へ。
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和田宿までのマイナス2時間ー美ヶ原トレイルラン2017レポート3

美ヶ原トレイルラン2017のレースレポート第3段です。
短縮された73kmのレースですが、何せ美ヶ原に行かないもので、いつもとは様相の違うレースとなりました。

スタート直後のブランシュたかやまのゲレンデを登りきると、本来ならば右に曲がる道を、コース変更のため左に曲がりました。
序盤は45kmのコースをたどって行くのですが、これまで出場したことがなかったので、どんなコースかが全くわかりません。
また、フィールズの主催する大会はエイド以外に距離表示がほとんどないため、自分の位置すらよくわからないのですが、それも仕方ありません。
ゲレンデを登りきったかと思うと、すぐに急な下りの山道に入ります。
足場が悪く下り渋滞が起きていましたが、この下りはさほど長くなく、すぐにエコーバレースキー場に向かう林道のようなコースに入り、途中からゲレンデを下ります。
この日は膝のケガが気になっていたため、下りは自重する方針でした。
いくら抜かれてもいいので、山の傾斜で自然と出るスピード以上は出さないことにしていました。
脚は消耗品であること、特に膝が消耗しないように、レース中ずっと意識しなければなりません。
「膝にやさしく」大作戦です。
私はレース中に意識しなければならない課題があるときには、適当なフレーズを作って頭の中で延々リピートさせています。
膝にやさしく大作戦では、ブルーハーツの「人にやさしく」のメロディーを借りて「膝にやさしく♪」と口ずさんだり、「消耗品、消耗品」とひたすら呟いたりしていました。

前半のコース変更区間は大半が未舗装の林道で、しかも下り基調で走りやすく、また、走らされるコース設定になっていました。
走れるということは膝への負担が大きいということでもあり、常に飛ばさないことを心がけて、時には意識的に歩きを入れて進みました。
本日脚は消耗品につき、大事にしなければならないのでした。
最初のエイドは何km地点なのか正確に知りませんが、恐らくは12~15kmだったのだと思います。
変更されたコースについては情報が少ない上に、距離については情報が錯綜しており、何が正しいのかわかりませんでした。
とりあえずこのエイドには、和田宿まで20kmと表示されていたので、それを目安に前に進みます。

コースはその後も傾斜の緩やかな林道で、まあ走れること走れること…。
調子がよければイケイケで走れますが、この日は自重モードしかモードを用意していないので、マイペースあるのみでした。
この長門牧場近くまでの林道は、中央分水嶺の山腹をトラバースするように拓かれています。
途中何度か「○○隧道」という標識があり、トンネルでもあるのかと思って覗いてみると、山腹から用水路が出入りする隧道でした。
ある隧道では山腹から水が出てくる、他の隧道では水が山腹に吸い込まれていく、初めて見る光景でした。
治水とか利水とか目的は大きくとも、こんな山の中の地道な営みで支えられているのだと思うと、ふと感慨深くなります。

雨がいつ頃から降り出したか記憶が定かではありませんが、最初のエイドを過ぎて少し走ってからだったでしょうか。
時刻で言えば、7:00頃にはもう雨具を着ていたような気がします。
土砂降りレースのUTMF2016で学んだことの一つに、雨が降りだしたら雨具の装着をためらわないというものがあります。
普段の私はだいぶめんどくさがりな人間で、少々の雨ならば持ってる傘も開かないくらいです。
UTMF2016でもレース中に雨がぱらついた瞬間があったのですが、森の中だし大丈夫だろうとたかをくくっていたところ、すかさず降り出した本降りの雨にやられてしまい、慌てて雨具を引っ張り出して難を逃れるという、拍手をもってお間抜けな経験があります。
そのとき、私の前にいた香港の参加者の方が、とてもスマートに雨具を装着していたのが強く印象に残っています。
たかをくくらずに、様子見段階で雨具を着ること。
UTMF2016で得た教訓の一つです。

ということで雨具のジャケットのみ着て、林道をひた走ります
今回はサロモンのボナッティをレース装備にしましたが、ボナッティはストレッチがすごいのです。
装備パンパンのリュックを背負った上から着ても、ジッパーを首まで上げることができます。
長門牧場との分かれ道にさしかかると、いったん和田宿に向かって林道を下ります。
この下りだけで10km近くあるはずで、和田宿のエイドまではさらに、ロードの水沢峠越えをしなくてはなりません。
脚の消耗を気にしてゆっくり下ります。
すると、前から林道を登ってくるランナーがいます。
優勝した東徹さんです。
この林道はピストン区間になっており、速い選手とすれ違うのでした。
すれ違いざま思わず、ナイスラン!と声をかけると、東さんもファイト!みたいな言葉で声をかけてくれました。
そのあとは大瀬さん、小川壮太さん、2位になった矢嶋さん、望月将吾さん、山田琢也さん…。
さすが日本選手権、そうそうたるメンバーとすれ違い、声をかけ、かけられしているうちに、気分が高揚してしまいました。
予想よりもかなり早いタイムで林道を下りきり、入大門の集落を抜けて水沢峠を目指します。

入大門に着くと、雨がかなり強くなっていました。
水沢峠のトレイルとロードの分岐点辺りで、Aさんとすれ違うことができました。
Aさんは私の脚を気遣ってくれました。
友達だから当たり前なのかもしれませんが、その当たり前ができるAさんの優しさが素晴らしいのだと思います。
ロードの水沢峠は、一言で言うとダラダラでした。
なんだか長いのです。
水沢峠の登山道は急な登り下りを一本ずつこなせばよいのですが、ロードの水沢峠は特に登りがダラダラ長く、先が見えずに高揚した気持ちも冷めていきます。
入大門から和田宿までは4km強だと思いますが、峠のロードの下りもあり、なかなか脚に負担のかかる区間でした。
この頃になると和田宿に入れる時間がほぼ読めてきます。
5時間を超えそうですが、昨年は7時間かかったのでマイナス2時間です。
制限時間に変更はないので、2時間がそのまま余裕になります。
正確にはわかりませんが5kmほどの短縮と、コース変更による山岳区間のカットの影響です。
マイナス2時間は大きいなと思いながら和田宿に到着しました。
スタートから5時間10分後、9:10頃のエイドインです。
やさしくしてもらった膝たち。
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私はケガのとき以外は膝のテープは使いませんが、今回は過保護なくらいに施しています。
右膝には軽い違和感がありましたが、まだ問題なさそうです。
ただ、両足の内くるぶし周辺と左足のアキレス腱に軽い痛みが出ていたため、ケアのために大休止することにしました。
30分の和田宿滞在を自分に義務付けます。