竹仙坊日月抄

トレイルランニング中心の山行記やレース記、その他雑感が主です。藤沢周平が好きです。

私的装備論ー若狭路トレイルラン2017余録2

今回の若狭路トレイルラン2017はショート15kmの部に参加したため、装備は軽く行こうと決めていました。
私の大好きな高尾山天狗トレイルはやはり16km前後のショートレースですが、真冬に開催されるためある程度の防寒装備が必要になります。
そうすると、いくらショートレースとはいえ、それなりの容量のリュックが必要になります。
軽装で臨むわけにはいかないのが、高尾山天狗トレイルというレースです。
そういうことから考えると、今回の若狭路トレイルランは夏の名残が感じられるなか開催されたレースであるため、ギリギリの軽装を試すよい機会となりました。

とはいえ、リュックは背負います。
過剰装備上等系トレイルランナーである私は、何か背負ってないと不安になる、リュック強迫症系トレイルランナーでもあります。
リュック強迫云々は勢いで筆が滑った嘘ですが、装備過剰はいつものことで、これは治ることのない病のようなものです。
エストポーチ的なものでは足りないのです。
今回私が使ったのは、青梅高水の参加賞リュックです。
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いつかの長良川清流マラソンの参加賞でもあったらしく、色まで同じのリュックを背負ったランナーがけっこういました。
正確な容量はわからないのですが、勝手に3Lくらいと仮定して準備した結果、リュックの中はサイドポケットを含めて下記のような装備となりました。

ファーストエイドキット
ウインドシェル上(モンベル)・下(モンテイン)
ライト(ヘッド1、ハンド1)
スマホの非常電源
携帯トイレ
財布
水:ソフトフラスク250mL(メインに使用)・500mL(予備)
食料類

軽装が可能なレースで悩むのが、非常用装備をどれだけ持って行くかです。
今回私は、雨具を持たずにウインドシェルで済ませました。
晴れて気温が高く、山は低くてエスケープが容易という条件のため雨具不要という判断です。
ファーストエイドはショート用の軽いバージョンにすることもできたのですが、リュックの容量に余裕があったので、私なりのフルスペックでロングトレイルで使用するものをそのまま使いました。
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中形のジップロックがパツンパツンになるくらいの大きさです。
結果的にはこれが幸いし、足首を捻挫した選手にテーピングすることができました。
軽いものに変えていたら足首のテープは持っていっていかなかったはずです。
選手のケガ自体が無いことに越したことはないのですが、あの時間帯に私が通りかからなければ、私のテーピングは過剰装備であったと言えるかもしれません。
しかし、いくら過剰であると思っても、タイミング1つで適切なものになる場合もありますし、それでも足りなくなる事態もあります。
過剰であったり余計であったりすることは、不確実な事態に対応するために必要なものなのです。
そして山に入るということは、不確実な事態に会う確率を積極的に高めていく営みでもあります。
山に入る以上は、ある程度の過剰を見越して準備しなければならず、そして過剰なまま下山できれば、むしろそれは幸いなのです。
とか偉そうに言っていますが、私は必要と不要の見極め能力が低いだけなのかもしれません。
不要なものを徹底的に削ぎ落とす美学も、なんとなくわかります。
ただ私は、どんなに軽装であろうとも、ファーストエイドと水とライトを持たずに山に入ることはしません。
例えそれが結局過剰であったとしても、今回のように誰かの役に立つことがあれば、それは必要なものに変わります。
これは価値観の問題なのかも知れませんが、私の装備は私のためだけにあるのではないということ、その前提に立って装備というものを考えたいのです。
自分の装備、特にファーストエイドキットは、社会的な資材として重要なものだと思っています。
他人に強制はしませんが、私が余計にものを持つことは、同じ山域にいる登山者のトラブル対処能力の底支えになると考えています。
私自身はこれまでに他のトレイルランナーの装備に助けられたことはありませんが、救護されているトレイルランナーは何度も見たことがあります。
ケガのような非常事態に対処するには、誰の装備かではなく、資材があり、願わくば少し過剰にあることが重要です。
自己責任という考え方もありますが、非常事態にはなんの役にも立たない考え方であると思います。
非常事態ではただ目の前にトラブルがあるだけで、そこで必要なのは、ましな状況に戻すための知恵と資材です。
自己責任とかその辺は、下山してお風呂入ってご飯食べて一晩寝て、そして気持ちに余裕ができてから考えればいいのです。
私は私の過剰なものが、困った誰かに適切に渡るのならば、それが私の望むところです。
山のレースで何かありましたら、お近くの竹仙坊に声をかけてみてください。
あなたの必要なものを私が過剰に持っているならば、喜んでお分けします。
私が持ってなかったら、誰か持ってる人を一緒に探しましょう。
それぐらいの助力でもよければ、いくらでも。
あ、ハセツネは助力NGですね。
そういえば、若狭路トレイルランの競技規則には素敵な文言があったのを、ハセツネの助力NGで思い出しました。
若狭路トレイルランでは、他者の救護に当たったランナーが救護に関連して起こしてしまった競技規則違反は、違反としては取り扱わない、というような文言がありました。
ニュアンスは違いますが、善きサマリア人法のような寛容な考え方で、かつ現実に則していると思います。
この規則を擁する若狭路トレイルランは、それだけでも、魅力のある大会です。
また行きたいなと思います。

装備
帽子:パタゴニアのメッシュのやつ
サングラス:スワンズのイエローレンズ
シャツ:プライマルのサイクルシャツ
アンダーシャツ:ゼロフィットの旧型
手袋:ケンコー社指切り
ズボン:ノースフェイス腹巻きパンツ
アンダータイツ:ゼロフィット
カーフスリーブ:CEP
靴下:C3fit紙
靴:アシックス・ゲルフジアタック4

海から島へー若狭路トレイルラン2017余録1

次の日曜にはハセツネが始まるというのに、まだ若狭路トレイルランの余録です。
もう少しだけ書き留めておきたいと思います。

自分のフィニッシュの後、友人Bさんのフィニッシュ予想時刻15時半までは3時間以上ありました。
宿でコインシャワーを借りて身支度を整えたあとは、海沿いをボケーっと歩いて会場に再度向かいます。
会場のある食見の海は、透明度が高くてきれいでした。
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昭和末期の北部東京湾は味噌汁のように濁っていましたが、そんな海で育った私にとって、この海はまるで別世界のようです。
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一歩踏み込んで日本海と戯れた後は、お昼御飯です。
会場ではたこ焼とハンバーガー太巻きなどでお腹を満たしました。
また、よく晴れて暑い日だったため、スムージーがことのほか美味しかったです。
次回以降も出店していてくれればの話ですが、本当におすすめです。

その後は山中で応援しようと思って移動しましたが、結局山の出口に陣取りました。
山の出口の獣避けゲートまでは、フィニッシュから400mほどで到着します。
初めはゲートの横にいて、その後山中に移動して応援していたのですが、薮蚊の襲撃が凄まじいうえに小ぶりのスズメバチまで現れてしまったため、早々にゲートまで引き上げました。
ゲートには1時間ちょっといましたが、ランナーがひっきりなしに帰ってくるので退屈はしませんでした。
声をかけながらランナーを迎えていると、Bさんが予想よりも20分くらい早く山を下りてきました。
Bさんの後を追って、フィニッシュまで荷物を背負ってドタドタ走りながら戻ります。
Bさんは無事にロング43kmを完走し、ITRAポイントを2ポイント獲得しました。
菅平を完走して3ポイント獲得しているBさんは、これでSTY2018エントリーに必要な5ポイントを得ることができました。
抽選に通れば、来年の春にはあの天子山地を駈けめぐっているのかもしれません。
なんか羨ましいです。

フィニッシュ後は、三方駅近くの日帰り温泉・キラリの湯に送迎バスで送ってくれます。
入浴の無料券が参加賞に含まれています。
次の月曜に夏休みを入れていて、東京に急いで帰る必要がなかったため、お風呂につかったあと、小浜線北陸線を乗り継いで、滋賀県の長浜に向かいました。
一泊した次の朝、琵琶湖に浮かぶ竹生島に行くのがこの休みの目的です。

竹生島は琵琶湖に浮かぶ島のうち、古くから信仰の対象となっていたことで知られています。
今でも西国三十三ヶ所の札所となっていて、巡礼の方も多く訪れる島です。
交通手段はもちろん船、琵琶湖汽船の船で長浜港から竹生島に向かいます。
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出港して振り向くと、長浜の街を見守る伊吹山が。
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伊吹山は、あのヤマトタケルノミコトと戦って勝った荒ぶる神が住む、美しい山です。
竹生島には30分ほどで到着します。
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竹生島には宝厳寺と都久夫須麻神社があり、それぞれ秀吉時代の国宝や重文を擁しています。
ただ、こちら宝厳寺の弁天堂は国宝ではありませんが、日本三大弁財天の一つに数えられる竹生島弁天を祀っています。
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ありがたや。
宝厳寺の国宝である観音堂は修復中。
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それでも、チラ見せではあるものの、秀吉時代の極彩色を現代に甦らせています。

神社本殿も国宝。
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国宝だからなんなんだ、ということもありますが、安土桃山時代の木造建築は貴重なので、いいもん見たなと純粋に思います。
そして、海のような琵琶湖。
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琵琶湖の面積は滋賀県の面積の6分の1しかない、とは滋賀県あるあるとして有名ですが、6分の1でこんなにでかいのか。
私は京都に両親が住んでいるため、琵琶湖の南側にはよく脚を伸ばすことがありますが、南側は湖が狭くなっているのでここまでの開放感はありません。
湖北地方に来たのは今回が初めてでしたが、この広々とした水の広がりには圧倒されました。
淡海とは琵琶湖の古名ですが、まさに海ですな。
琵琶湖でこんなに海を感じるということは、カスピ海なんか本当に海としか思えないんでしょうね。

帰りの船からは比良山系の遠景が。
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この奥で高島フェアリートレイルが開催されます。
そして、長浜に近づくと再びの伊吹山です。
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夢高原かっ飛び伊吹の舞台でもあります。
滋賀の山もまた実に走りたくなる山である。

今回は福井県滋賀県に初めて宿泊することになりました。
行ったことのない土地に行くことでどれだけ見聞が広がるかはその時次第だと思います。
ただ、東京湾の埋め立て地育ちである私の故郷にはない歴史的時間の厚みを感じながら旅ができたことは、貴重な経験であったと思います。
トレイルランをしていなければすることがなかった旅であっただろうことは、容易に想像がつきます。
そんな旅の行き先、次はどこなのでしょうか。

晴れ晴れー若狭路トレイルラン2017レポート2

若狭路トレイルラン2017のレースレポート、第2段です。
友人Bさん参加のロング、ミドルの部を見送った後、自分のスタートに向かいました。

スタート地点は快晴、簡単な開会式と福田六花さんによるインタビューが行われていました。
荷物預けをしてから列に並びましたが、ショートの部は奥ゆかしい方が多いのか、前方がスカスカで人がいません。
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私は吉住さんに勝ちさえすればよい、正確には、ロングの部に出ている吉住友里さんよりも早い「時刻」でフィニッシュできればよい、と思っていました。
2時間半を少し切るくらいなら、吉住さんより早くフィニッシュできるのではないか。
預かり知らぬところで勝負を挑まれた吉住さんはなんのこっちゃでしょうが、私にとってはそれがこの日の目標です。
負けへんで。
珍しく真面目な気持ちになったところで、9時ちょうどとなり、ショートの部がスタートしました。

序盤は林道メインで、いわゆる走れるコースです。
足元もぬかるみなどほとんどなく、良好なトレイルコンディションでした。
それもあって、今回はこれまでほとんど歩いてきたような登りも、積極的に走るようにしました。
しかも、今まで取り入れてなかったフォアフットのみを使う登り方を積極的に試しました。
さすがにちゃんと走ると写真が撮れないもので、絶景ポイントでもカメラ(スマホ)を出さずに通りすぎてしまいました。
スタート前までこんな競技志向など目覚めていなかったのに、いざ走り出したら脚が止まりません。
不思議なものです。

しかし、というよりは、やはり、最初のピークへの急登から脚の動きが鈍くなりはじめました。
それも当然、ケガの治りたてで練習不足なのに、脚に任せて走るからです。
仕方ありません。
急階段から始まる登りですが、階段のない急登も所々挟まります。
ここは海から立ち上がった山の稜線を行くコースで、海側は切り立った崖でしたが、傾斜が海とは反対側に向いていたので、危険は感じませんでした。
スタートから5kmほど走り、最初のピークを越えた先の下り坂で、事件というか事故が起きているとは思ってもいませんでした。

序盤の最初のピークを過ぎた下り坂の途中で、倒れているランナーと、その彼を介抱しているランナーに気がつきました。
立ち止まって事情を聴くと、倒れているランナーが捻挫してしまって動けないとのことです。
私はファーストエイドキットにXテープを1枚入れていたので、捻挫した足首の補助としてとりあえず巻きました。
1枚では不充分かもしれませんが、持ち合わせはそれしかありませんでした。
走行しているうちに他のランナーが本部に連絡してくれたり、介抱を引き継いでくれたりしたため、私はその場を離れました。
救護でストップしていた時間は6,7分だと思いますが、いったん競技モードが解除されているため、その後は無理なく走ることにしました。
ということは、写真解禁なのです!
コース中の木の切れ間からの日本海
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空の青と海の青が、たまらなくきれいに思えます。
かと思えば、こちらのキノコの兄弟。
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色彩を否定したその姿は、山の陰で白く輝いていました。
7km過ぎの第1エイドでは六花さんに追い付かれました。
思わず握手しながら、ちょうど1年前もUTMF2016のフィニッシュで握手してもらった話をしました。
一通り補給を終え怪我人の報告を済ませると、後半に出発しました。

第1エイドを出てすぐに、ショートの部一番の急登にさしかかります。
さすがにここは走れず、一歩一歩踏みしめながら登ってゆきます。
そこを登り終えさえすれぱ、第2エイドまでは気持ちのよい下りメインのアップダウンが続きます。
途中に猪もしくは鹿のぬた場?
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と言えそうなぬかるみがありましたが、はたしてどうなのでしょうか。
審議案件のような気がします。
トレイルはこんな感じ。
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適度に日射しがあり、路面もしっかりしています。
落ち葉トレイルとなっている区間もあって、非常に気持ちのよい山道でした。

第2エイドに到着したのはスタートからちょうど2時間くらい、11時になるかならないかくらいの頃でした。
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ここではトイレに行って、水を補給して、いがまんじゅうを食べて、梅ジュースを何杯もおかわりして、結構な時間を費やしました。
残りは3~4kmです。
途中時間を使いましたが、場合によってはまだ2時間半を切ってフィニッシュできるかもしれない。
吉住さんに勝てるかな。
そう思うと、とりあえず一生懸命走ろうと思えるのが不思議です。

第2エイドからの下りは前半が林道、後半が階段となります。
後半の階段の途中で、1人のロングの選手にかっ飛ぶようにして抜かれました。
フィニッシュ後にわかりましたが、この方がロングの総合優勝者でした。
私も負けじと1段1段飛ぶように下ります。
脚と足に負担がかかるかなと思っていましたが、さほどダメージなく下れたのが意外でした。
無理のない範囲ではあるものの、スピードに乗って下れたのは久しぶりです。
たった2週間前の信州戸隠で、最後の下り2kmを歩いて帰って来たのが遠い昔のようです。
回復基調にある自分を感じることができたのは大きな収穫でした。

階段が終わると急なつづら折りにたどり着き、やがて獣避けのゲートを過ぎると、海岸沿いのロードに出ます。
そこからはほぼウイニングランとなります。
スタートゲートだったフィニッシュゲートは、海岸の公園を抜けて、海に伸びる防波堤の中に移動されていました。
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山で遊んで、海に帰ってきました。
色々な人とハイタッチした後、ゲートをくぐったのは11時27分。
2時間27分51秒のフィニッシュでした。
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晴れ晴れとした日に、晴れ晴れとした気持ちで走ることができて、単純に嬉しかったです。
ゲートから会場に戻る途中、ロングの部の総合2位で吉住さんが帰ってきました。
ハイタッチして出迎えました。
勝ってたんだ、俺。
まあ、時刻だけだけど、そして、勝負の範疇に入らないことは充分承知しているけれど。
それでもさらに心が晴れ晴れとしました。
今日はいい日だ。