竹仙坊日月抄

トレイルランニング中心の山行記やレース記、その他雑感が主です。藤沢周平が好きです。

この風はいつかやむのかい?ー信越五岳110K2022レポート2

2022年9月18~19日に開催された信越五岳トレイルランニングレース2022の110kmのレポート第2段です。

スタートから49km地点の黒姫のエイドステーションまでの記録と記憶です。

 

時刻は5:25頃、スタート会場の斑尾高原は気温は高めなものの、かなりの強風が吹いていて、油断しているとうすら寒く感じました。

宿の出発時から着ているウインドシェルは、まだ脱げそうにありません。

110kmの部は5:30スタートですが、私はとりあえず最後尾付近に陣取って準備体操をしていました。

私の目の前には700人以上の出走者が並んでいます。

もっと規模の大きい大会もありますが、やはりこれだけの人数を目の当たりにすると、レース気分が高揚してきます。

スタートまではあと少し。

ウインドシェルを脱いでマスクを外すと、やはり強風でうすら寒く感じたため、前の人ごみに紛れ込んで風を避けます。

このスタートに立ってしまったら、いくら自分にとって制限時間が厳しかろうがなんだろうが、ここにいるランナーたちと、同じ道を同じ条件で走るしかないのです。

皆、仲間なんです。

石川弘樹さんと、怪我で出場できなかった西村広和さんからエールをもらった後、鳴り響くホーンを合図にスタートしました。

スタート直後、大勢の観客の声援に迎えられてそれだけで感無量です。

PatagoniaのYoutubeチャンネルには、スタートやフィニッシュの映像がアップロードされていましたので、興味のある方はどうぞ。

スタートしてすぐにゲレンデを登って少し走ると、スタート会場にいた応援団が先回りして待っていて、ここでもまた大声援を送ってくれていました。

レースは始まったばかりですが、なんかもう満足感を覚えています。

気分の上々の走り出しです。

 

華やいだ祭りの後、レース本番といった趣になってきたゲレンデの登りからは、朝の山々がよく見えました。

時刻は6:00頃、秋の彼岸前の朝は明るく、太陽は雲間から照りつける準備万端です。

そして、この登りで確信しました。

今日はめちゃくちゃ暑くなる。

この時間帯なのに、ちょっと登るだけで汗がぶわっと噴き出してきました。

高原は秋の装いが始まっていて、

すすきが揺れていたり草が黄色く色づき始めていたりと、視覚では秋真っ盛りという感じなのにもかかわらず、体感温度は夏模様です。

斑尾高原のトレイルは走りやすくて、登りでもいい感じで走れてしまうところが多いです。

ついついスピードも上がってしまいますが、それもあって、朝もはよから汗がだくだくです。

この暑いなか、ひとつ救いがあったのは、前日から吹き続ける風でした。

信越五岳の開催されていた三連休は、日本全国で台風の影響を受けて風雨が激しかったと聞いています。

しかし、この信越五岳の開催地域では、日中は雨が降らず、強い風が吹くにとどまっていました。

もちろん気温は高く、この日の妙高市関山のアメダスは最低気温26.4℃、最高気温30.7℃を記録します。

熱帯夜の名残の朝の暑さ、そこからの真夏日

暑さに弱い私にとっては走るには最悪のコンディションでしたが、強い風が吹き続けていたおかげで、ある程度涼感を得ることができていました。

この風はいつかやむのかもしれませんが、なるべくならやまないでほしいです。

 

斑尾高原をひとしきりぐるっと回り、14km地点の荒瀬原のウォーターステーションに到着したのはスタートから2時間弱経過した7:25頃でした。

計画としては順調です。

ここまでに500mLのソフトフラスクを1本空にしていたので、クエン酸ドリンクを補充してすぐに出発します。

直後の斑尾山山頂への登山道は、エスカレーター状態でした。

渋滞というほど流れが悪くはなかったので、特に焦りもせずにゆるゆると周りに合わせて登って行きます。

登りきって野尻湖が見えると、

山頂までは5分ほどしかかかりません。

登り始めから40分弱で到着しました。

この信越五岳トレイルランニングレースにおいては、いわゆる「信越五岳」のうち、ピークを通過するのはこの斑尾山のみです。

序盤の山場とも言えますが、まだまだ心身ともに元気いっぱいです。

斑尾山からの下りは山道がふかふかして柔らかく、走っていてとても気持ちよかったです。

快調に走り抜けて、19km地点のバンフにあるエイドステーションに到着しました。

時刻は8:36、レースタイムは3時間36分で、予定よりも6分遅れていましたが、まだ序盤なので焦らずに行くことにします。

屋内にあるトイレに寄ってから、一通りの補給を済ませて出発します。

この日は暑さのせいで水分摂取量が多く、その分トイレが近くて、この後エイドでは必ず立ち寄ることになりました。

バンフ出発後は袴岳を登ってから、35km地点の熊坂のエイドを目指します。

コースは袴岳までは登山道を行き、その後は林道がメインとなります。

上の写真は10:07に撮影したもので、レースタイムとしては4時間30分が経過していますが、まだまだ選手が詰まった状態であることがわかると思います。

袴岳を過ぎてから入った下りの林道である程度バラけたものの、総じてグループランニングのような状態が続きました。

スタートからここまでは極端な傾斜や足元が危険なテクニカルな場所がほとんどなくて、走りやすい道ばかりです。

スピードに差ができないため、各選手のペースにバラつきが生じないのでしょう。

懸案の暑さは、時間が経つに連れて厳しさを増していきました。

しかも、走れるトレイルでかつ制限時間に追われて走らされているので、運動強度が高く、余計に体温が上がっています。

標高の高い地点で風に当たることができれば快適なのですが、山を下って標高が低くなると、風に当たれなければムッとくる暑気に当てられて苦しむことになります。

それでも登山道は木々に覆われているのでなんとかしのげるのですが、林道は道幅が広いので木陰が途切れがちになり、太陽光線の熱にもさらされます。

そんなふうに暑さを増していく袴岳からの下りの林道を走り切り、35km地点の熊坂のエイドに到着しました。

時刻は11:07、タイムは5時間37分ほどで、予定よりも7分遅れでしたが、まだ気にするほどのものでもありません。

エイドの入り口にはかぶり水があり、私は水ごりのように何度もかぶってずぶ濡れになりながらエイドインしました。

ここ熊坂には、コーラやバナナなどの一通りの補給食に加えて豆腐やトマトもあって、暑いなかで食べるととても美味しゅうございました。

それと、ここではエイドスタッフをしていたランニングショップ・ルナークスランニングカンパニーの店長さんや、また応援に来てくれた友人Bさんとも話ができたことで、気持ちが楽になりました。

 

そういえば、なぜかこの日は気持ちが落ち込むことがなかったなと、振り返ってみて思います。

辛い、と思うことは多々ありましたが、気持ちが落ち込んでいたかというと、そんなことはありませんでした。

恐らくは制限時間に追われている感覚が強過ぎて、気持ちの中に落ち込む余地がなかったということなのかもしれません。

落ち込んでいる暇があったら一歩でも前に進め。

と、私の中のリトル竹仙坊が吹き込み続けていたのかもしれませんが、そんな前向きなリトル竹仙坊はかつて私の中にいたことがありません。

暑さでどうかなってしまっていたのかも。

 

熊坂の次は、14km先の49km地点にある黒姫のエイドを目指します。

エイドアウトしてすぐ、関川沿いの遊歩道を上流に向かって辿る区間に入ります。

ここはフラットに近いゆるーい登りで、実に走りやすい区間のはずですが、川沿いなので日陰が少なくて暑い区間でもあります。

幸い、私の走っていた時間帯は雲が多かったので、ギラギラと燃えている太陽にやられることはなく、しかも弱くなったとはいえ風が吹き続けていたため、体感温度はある程度抑えられていたのだと思います。

この風がなければもっときつかったでしょうね。

それでも、気温は12時過ぎに30℃を超えました。

常識的には、真夏日に不要不急の運動をしてはいけないはずです。

私は高い運動強度を保つことができなくなっていたため、5分走っては1分歩き、8分走っては2分歩き、のように、休憩を入れながら進んでいました。

歩きを適宜入れておかないと身体が持ちません。

そうやって熊坂から50分くらい進んできたところ、音に聞こえし「宴会隊エイド」が目の前に現れました。

時刻は12:13、太陽がギラギラと燃えている中の到着です。

ここは私設エイドですが、豊富でコーラや麦茶、紫蘇ジュースといったドリンク類が充実していて、しかも、冷え冷え!

ここで冷たいドリンクで内臓を冷やすことができ、熱くなった身体が良い感じに冷えていくのを感じました。

宴会隊エイドは砂漠のオアシス。

かぶり水も存分にして、生き返った心地で出発です。

この宴会隊エイドがなければ、黒姫まで無事に進めたかどうか危うかったと思います。

本当にありがとうございました!

 

宴会隊エイドを出るとすぐに、関川にかかる橋を左岸から右岸へ渡ります。

渡った先をまた上流の方に向かって走ると、ここでも道端にかぶり水を用意してくれている方々がいて、本当にありがたかったです。

Viva かぶり水!

橋から少しロードを走った後、少し山道を登って山の畑に出て、そこからまた少し進むと、黒姫山方面に向かう林道にたどり着きます。

その林道を少し走ると、今度は本格的な登山道に入ります。

この登山道は森の中を行く道です。

シングルトラックで片側が切れている所が多く、足元とスピードの出し過ぎには注意しないといけないのですが、登りも下りも傾斜が緩く、気持ちよく走ることができます。

走れる杣道、といった趣でしょうか。

ずっと森の中なので暑さもしのげて、気持ちよく走ることができました。

トレイルランニングを楽しむ、とは、石川弘樹さんが書いたトレラン入門書の書名でもありますが、楽しむことのできるトレイルです。

やがてエイドの音声が流れて聞こえてくるようになると、道はダブルトラックに広がり、スピードに乗ることができるようになります。

私も飛ばしましたが、他の選手も皆飛ばしてましたね。

そうこうしているうちに、時刻は13:22、レースタイム7時間52分で49km地点の黒姫エイドに到着。

予定時刻の13:30より、8分リードしています。

熊坂到着時は7分ビハインドがあったので、15分巻き返しました。

経過は上々。

そして、とりあえずはかぶり水、かぶり水。