竹仙坊日月抄

トレイルランニング中心の山行記やレース記、その他雑感が主です。藤沢周平が好きです。

小さいことー福音のルーク

先日の台風19号には正直参ってしまいました。
私自身は直接の被害を受けていませんが、台風が過ぎるまで緊張しっぱなしで、心身ともに万全になるまではそれなりに時間が必要でした。
甚大な被害が出たことに、今も心が痛みます。
立て続けに千葉県で集中豪雨災害も起きました。
被災された皆様に、心よりお見舞い申しあげます。
早く安らかな生活に復帰できますようお祈りいたしております。

そして、ここで一度、タイトルについてお断りをしなければなりません。
キリスト教の信仰を持たない私ですが、大学でカトリックの聖人について勉強したことがあります。
そこで知ったのが福音書の四聖人でした。
浅い知識ではありますが、福音書のルカについては、その音の響きのよさから記憶に残っていました。
ルークとはルカの英語読み(の日本語表記)です。
ところがこの記事は、福音書のルカについてのお話では全くありません。
ルークの名を持つあるラグビー選手の言葉に、私が救われたという趣旨のお話です。
その点、ご承知おきください。

さて、直接的ではないからまだよかったものの、台風19号によって私が被った間接的な被害としては、出場予定だったハセツネとFTR100Kの中止があげられます。
ハセツネは3年ぶり5回目の、FTR100Kは3年ぶり3回目の完走を目指していました。
トレランレースの中止なんぞはこの災害を前にすればとるに足らないことですが、個人的には目標を失ったことにより、完全に道を見失ってしまいました。
ハセツネもFTR100Kも、昨年の骨折以来遠ざかっていたロングディスタンスへの復帰がかかっていたレースでした。
どちらも制限時間が厳しくないので、ゆっくりでもいいから完走して、この距離でもまた行けるんだという自信を回復できればよいなと思っていました。
それなので、かける気持ちが今回は大きかったのだと思います。
この喪失感はかなりの大物で、これをもて余した私は、一月近くろくに走らない日々を過ごしておりました。

走らない間何をしていたかというと、ラグビーワールドカップにはまっていました。
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大学の同好会でラグビーをやっていた私は、人並みよりはラグビー好きです。
今回のワールドカップも、4試合スタジアム観戦しました。
準々決勝の日本vs南アフリカ戦を観に行ける幸運もありました。
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日本代表のプレーには心底感動しました。
ワールドカップの期間中、とても楽しく充実した時を過ごすことができました。
充実してたと思えるのなら走らなかったことくらいなんてこともないのですが、走る意欲を失っていたことに少し恐れがありました。
意欲を失ったまま、楽しみまで失ってしまうのではないかという恐怖心です。
そして意欲を保ち続けることの難しさを実感しました。
そんなこんなのうちに、12月の伊豆トレイルジャーニーが近づいてきてしまいました。
本当はハセツネとFTRを走ってから臨んでいたはずのレースが、ロングディスタンスのトレイルランへの復帰戦となってしまいました。
ちなみに伊豆トレイルジャーニーには、2013年の第1回大会以来の出場となります。
もうおしりに火がついています。
練習を再開しなくてはなりません。
減退している意欲を奮い立たせるのに、この手の切迫感の速効性には大したものがあります。
ただ、それだけではこの重たくなった腰を上げるにはまだ不充分でした。
もう一段ギアを上げなくてはならないのに、なかなかきっかけがつかめずにいました。

そんなときに思い出したのが、あるラグビー選手の言葉でした。
その名はトンプソン ルーク。
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この偉大なラグビー選手については、ググればいくらでも情報が出てくると思いますので、私からの詳しい紹介は省きます。
2015年のワールドカップから彼のファンになり、所属チームの近鉄ライナーズ秩父宮ラグビー場に遠征しに来た際、よく観戦しに行ってました。
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私が好きなのは、彼の全く手を抜かないハードワークです。
そんなトンプソンルークですが、10月13日のスコットランド戦の歴史的な勝利後のインタビューで、台風被害に比べればという文脈で、「ラグビーは小さいこと」と言い切りました。
もちろん圧倒的な自然の力を前にしては、人間の営為など小さいものだというのは、ある意味当然なのかもしれません。
しかし、彼は日本を代表するラグビー選手で、恐らく人生のほとんどをラグビーにかけてきているであろうことは容易に想像がつきます。
また我々一般人にしても、日々の仕事などは簡単に小さいことと言えるほど、小さいことではないと思います。
費やしてきた時間や犠牲にしてきたもの無しでは、その小さいことすら成り立ちません。
しかし、彼はそれを「小さいこと」と言い切りました。
自然の力の前では、自分の成し遂げたことなど小さいことなのだ、そう言い切れるその度量に感服しました。
そして、続く南アフリカとの準々決勝で、彼はその「小さいこと」に全身全霊で打ち込む姿を見せてくれました。
たとえそれが小さいことでも、真摯に取り組まなくては何もならないのだという言わんばかりに。
台風などの災害の被害に比べれば、私の描いていた復帰への道のりが閉ざされたことなんぞ、それがかなわなかった喪失感なんぞは小さいことなのです。
だから、小さいことに必要以上に惑わされるのはやめて、自分にできる小さいことを愚直に積み重ねてゆくしかないのです。
ただ、私がそのことに気がつくには、トンプソン ルークの発言を聞いてから、彼の粉骨砕身のハードワークを実際にこの目で見てからすら、2,3週間が必要でした。
日本代表が負けた相手の南アフリカが優勝し、ワールドカップ自体が閉幕してから、全てを振り返るなかで気がつきました。
福音のような言葉のありがたさに気づくのが、まあ、遅いこと遅いこと。

ということで先週から、10km帰宅ランを二日続けるところから走る練習を再開しました。
そして新たな練習「ハカマイル」にも、構想3ヶ月にしてようやく着手しました。
こうやって、小さいことを、少しずつ積み上げていければよいなと思います。
ちなみに、私にとっての福音のルークは、今シーズンのトップチャレンジリーグを最後に現役を引退します。
196cmの大男は、その全身全霊で小さいことをやり抜こうとしています。
私の最後の観戦機会は、2020年1月19日の秩父宮での試合となります。
その勇姿、目に焼き付けたいと思います。