竹仙坊日月抄

トレイルランニング中心の山行記やレース記、その他雑感が主です。藤沢周平が好きです。

終わりも始まりもートレランのおしゃべり考

トレイルランニングのレースでは、周りのランナーと話しながら走ることが珍しくありません。
私は自分から話しかけることは多くないのですが、話しかけられればけっこうおしゃべりします。
レース中だと、たいてい見ず知らずの方と話すことになりますが、そういうのは苦にならないタイプのランナーです。
場合によっては相手の顔も見ないまま話すようなこと(前後して進んでいるときとか)もありますが、顔が見えなくても話はできます。
相手の目を見て話しなさいとかいった常識が、実は無意味なことがよくわかります。
状況次第ですが、相手の目を見なくても、コミュニケーションは成立するのです。
そういった、色々なコミュニケーションの条件や制約を越えたおしゃべりが、トレイルランニングもしくは山の中では、自然と出来るんじゃないかなと思います。
それまで眠かったりダルかったりしても、おしゃべりすると気分がよくなることも多く、そういう効用もあります。
ただし、それを目的に話をしてるわけではありません。
制約からも目的からも解き放たれたコミュニケーションとしてのおしゃべり。
そこに自由を感じます。

もちろん、情報交換という意味での効用もおしゃべりにはあります。
今年一番レース中におしゃべりしたトレイルランナーは、美ヶ原とFTR100でお話しした方でした。
美ヶ原ではA5長門牧場の出発直後から少しお話しして、そのあと、フィニッシュに向かうスキー場でも言葉を交わしました。
再会したFTR100では、有間峠付近の泥沼ピストントレイルでエイドの食料についての情報を伝えてくれました。
美ヶ原のレースでは、私がUTMFに初挑戦するという話をしたところ、ご自身のUTMF2015の完走体験を教えてくれました。
色々なアドバイスをもらった中で、UTMF対策で一番印象に残ったのは、ヘパリーゼ
彼はヘパリーゼの積極活用で、完走率42%くらいで過酷だったUTMF2015を完走しました。
私のUTMF2016のドロップバッグとサポーターバッグに、大量のヘパリーゼが詰め込まれたことは言うまでもありません。
短縮レースとなったため効果はわかりませんでしたが、次の機会には是非またヘパリーゼ持参で臨みたいと思います。

また、おしゃべり相手から、まるで詩のような言葉を聞くこともあります。
同じく美ヶ原のレースで、A5長門牧場に向かう長い登りでちょっとおしゃべりをした方が、牧場のアイスクリームが美味しい!と教えてくれました。
この日の美ヶ原2016は暑い1日で、暑さに弱いトレイルランナーである私は、この長い登りでかつて無いほどヘロヘロになり、集中力も切れかけてました。
完全に熱中症の一歩手前まできていたのですが、そんな状況で長門牧場で売っているアイスクリームが美味しい!との情報を教えてくれたのです。
暑さでヘロヘロの私にとって、美味しいアイスクリーム!という響きは、絶大なモチベーションとなりました。
その後の道のりはアイスクリーム、アイスクリーム、アイスクリームだよ♪と心の中で歌いながら走りました。
牧場の売店で購入できたそのアイスクリームの、美味しかったこと、この上ありませんでした。

そして、後ほど、フィニッシュも近い高原地帯でその方にお会いして、お礼をしたときの話です。
18時半を過ぎた頃、日が沈みかけていて、高原がうっすらオレンジ色に染まっていました。
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この写真はそのちょっと後に撮ったもので、正直なところ雰囲気は出てませんが、ここがオレンジに染まっていたところを想像してみてください。
私はお礼だけ伝えて先に進もうとしていたのですが、景色に見とれて、ふと立ち止まってしまいました。
そんなとき、その方が「もう終わっちゃうね」と言ったのです。
何の気なしに言った言葉だとは思いますが、それが強く心に残りました。
楽しかった時間も苦しんだ時間も、自然に浸る時間も、フィニッシュに近づくにつれて、少しずつ終わっていきます。
そして、フィニッシュラインを越えたら、終わってしまうのです。
過ぎ行く時間への名残惜しさのようなもので、レース終盤に恐らく誰もが感じている感慨が込められたその短い言葉に、強く心が打たれました。
風景と相まって、とても詩的に感じました。
その場は応える言葉が浮かばずに立ち去ってしまいましたが、フィニッシュした後、ああ終わったなと思うと同時に、次はUTMFか、と、次のレースのことを考えている自分がいました。
そのとき、ひとつが終わるとまた次が始まる、そういうことなんだなと感慨深くなりました。
終わってもまた始まるのです。
先にフィニッシュしていた友人とその日のレースの話をしながら、そんなことを考えていました。
もし、あのときの言葉に応えられるならば、あのときに帰って言葉を交わせるのであれば、「でも、また始まりますよね」と今なら言えると思います。
もう終わっちゃうね、でもまた始まるね。
今年のトレイルでのおしゃべりのなかで、一番印象深いことばでした。

思えば「年末年始」という言葉も、似たような感じです。
終わったら、始まります。
さらに「月末月初」もそうかと思うと世知辛さが一挙に上がりますが…。
終わりがあると始まりが来る、今年は終わるけど来年が始まります。

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晦日の御大。
UTMFは2018年までないけど、来年も遊びに行きたいと思います。
そして、皆様、2017年が良い年になるよう祈っております。
来年もお暇があればよろしくお願いいたします。