竹仙坊日月抄

トレイルランニング中心の山行記やレース記、その他雑感が主です。藤沢周平が好きです。

晩秋の有終ーFTR100K2021レポート5

2021年11月 20(土)~21(日)日に開催された、第7回 FunTrails Round 秩父&奥武蔵 100K(FTR100K2021)参加記録の第5段です。
90kmA9(2度目の)刈場坂峠から、やっとのことで106km地点、羊山公園のフィニッシュにたどり着きます。

4:00ちょうどにA9に入り、まずは提供されていた緑のたぬきをいただきます。
A6では赤いきつねを食したので、こちらでは緑のたぬきにしました。
私は普段カップ麺を食べる習慣がなく、この日食べたきつねとたぬきが、かなり久しぶりのカップ麺でした。
カップ麺て美味しいじゃん、としみじみ感じました。
特にこのA9で食べた緑のたぬきは、少しのびていたのですが、それがまた絶妙の食べやすさで、思わずおかわりできるかどうか(できませんでした)エイドのボランティアキャストに訊ねてしまったほどです。
本当に美味しゅうございました。
腹ごしらえが済んだら、A8と同じで流れで椅子に座って3分ほどの仮眠を取ります。
眠気を落ち着けて、94km地点のA10県民の森に向けて出発です。
残りはもう16kmほど、歩いても制限時刻の13:00には間に合うでしょう。
そう考えれば気が楽になります。

A9~A10間は4kmしかなく、レース中の最短区間なのですが、A2刈場坂峠(1度目の)に向かう際に逆向きで走った印象では、急で細かいアップダウンが続くのと、短いものの険しい岩場があるのとで、走りにくい山道という印象を受けていました。
しかもよく考えたら、左膝に先ほど捻った際の痛みがあるため走れないのです。
それもあり、1時間半くらいのラップタイムで、時刻としては緩めに見て6:00までに到着すればいい、くらいの感覚で進むことにします。
せめて登りだけは気合いを入れますが、下りは脱力して膝に負担をかけないように進みます。
岩場は前日の朝に通過しているにも関わらず、眠気で判断力が鈍っていたのかルートファインディングに手間取りましたが、後続の選手に教えてもらって乗り越えます。
こういうのって、本当にありがたいです。
そういえばこの夜はよく晴れていて、視界が晴れる場所では十六夜の月がよく見えていました。
もうだいぶA10が近づいた辺りから見えた月。
f:id:CHIKUSENDO:20211216185850j:plain
月光が散乱した写真になってしまいましたが、月夜の明るさに、遥か昔、高校生の頃の夏の夜を思い出しました。
嬬恋村のキャンプ場の夜更けに、月明かりで歯磨き。
ただそれだけの記憶なのですが、そんなの思い出すなんて、たぶん眠気が頭の妙な引き出しを開けてしまったのでしょうね。
その夜の月は今でも人生最高の明るさだと思っていますが、この夜の月もいつか思い出す時が来るのでしょうか。

そんなこんなで、時折まどろみながらも、それなりの気合いで進み続けた結果、想定よりも早めの5:30にA10県民の森にたどり着きました。
94km地点です。
そして、エイドステーションは宇宙ステーション。
f:id:CHIKUSENDO:20211216190222j:plain
には、やっぱり見えないですね。
でも、闇に白く輝くテントの光とブルルルルと唸る発電機の音に、心が浮き立ちます。
最近、宇宙ステーションに行った民間人の日本人は私と同じ千葉県の出身なのですが、彼には、漆黒の宇宙に浮かぶ宇宙ステーションもいいだろうけど、闇夜に浮かぶエイドステーションもなかなかだよ、と声を大にして伝えたいと思います。
エイドステーション見たさに、オーバーナイトのトレランレースにも、いつかチャレンジしてくれることでしょう。
それはおいといて、過去においても、FTR100K最後のエイドステーションには多大なお世話になっていて、初回の2015大会ではマッサージを受けながら寝落ちしてしまい、目が覚めたら1時間経っていた、なんて記憶があります。
今回は眠気はあるものの、コロナ禍の影響でエイドでのマッサージの提供がありません。
すなわち寝落ちは免れます。
椅子に座って丸くなり、しばしの仮眠をとります。
目が覚めるとエイドのキャストの方が心配してくれて、寝ていたみたいだけど大丈夫?仮眠スペースがあるけどそこで寝る?と、気遣いの言葉をかけてくれました。
よく見るとそのキャストは、ボランティアで参加した2018大会のキャスト仲間でした。
今回も活躍していますね。
余計にありがたさを噛みしめながら、みかんをほお張ります。
私はみかんが好物なのですが、エイドで食べるみかんは、また格別に美味しく感じます。
トレイルだけでなく、例えば館山若潮ラソンでもエイドにみかんがあり、見つけるとよっしゃみかん~!とテンションが上がります。
みかんで軽く元気になったあとは、やり残したことやもっと食べたいものがないかどうかを確認し、最後の区間に向かいます。
A10は計測マットが出口のみに設置されているため、出発時刻が記録されます。
5:45、夜明け前に下山を開始します。

下山路のトレイルは途中までは過去に参加した大会と同じでしたが、これが結構急な下りで、痛めている膝に響くこと響くこと。
覚悟はしていたのですが、いざ痛みを感じると辛いものがあります。
走れないのでけっこうな人数に抜かされてましたが、順位を問題にするようなレベルの選手でもない私は、淡々と歩きます。
この道は意外と危険で、深い落ち葉の中にゴツゴツとした石が隠されていて、過去の大会では、薄闇の中で転倒したこともあります。
足下の感覚に集中して、ひたひたと歩きます。
進むにつれて、夜も白々と明けて、視界が明るくなってきました。
トレイルを下りきると、朝焼けが待っています。
f:id:CHIKUSENDO:20211216190344j:plain
日頃朝寝坊な私は、朝焼けなんて早朝スタートもしくはオーバーナイトのレース中にしか見ないので、もう何年ぶりだったのでしょうか。
そして、前日の朝に会った武甲山は、本日も姿を現しています。
f:id:CHIKUSENDO:20211216190553j:plain
おはようございまーす!
なんだかんだで、日が昇ってしまえば、眠気も収まってしまいました。
私自身にもおはようございます。
てな感じで、前日トイレを借りた琴平神社を過ぎて、また前日登ったトレイルに入ります。
f:id:CHIKUSENDO:20211223212319j:plain
写真には写っていませんが、この下山路は前日同様足下が泥でぐちゃぐちゃで難儀しましたが、そんな苦しみもあと少しです。
下山後は横瀬の街中を、前日スタート直後に走った道を逆に辿ります。
登りや下りがどこから始まるかの記憶が新しいので、一喜一憂しながら進んでいきます。
この日の私は、登りが喜で下りが憂でした。
もうすっかり朝で、周りにたくさんの選手がいるのがよく見えていましたが、彼らも一喜一憂していたのでしょうか。
フィニッシュ直前の区間ではどのレースでもそうなのですが、周囲のランナーに連帯感や一体感を覚えていて、ほんのり幸せな気分になっています。
まあ、膝は痛いままで、身体は辛いんですけど。

やがて、西武秩父線のガードをくぐって、横瀬駅羊山公園の間にあるトレイルにさしかかります。
f:id:CHIKUSENDO:20211216190940j:plain
すっかり朝、すっかり秋。
秋というか、完全に晩秋です。
晩秋の静かな朝の短いトレイルを過ぎて、少しロードを進んだ後に、最後の琴平丘陵のトレイルに入ります。
f:id:CHIKUSENDO:20211216191056j:plain
ここも前日に通った道を辿り返しているのですが、明るい時に見るとこんなにきれいな道なんだと、感慨深くなります。
この写真には写っていませんが、とりどりに色づいた木々が何とも言えない美しさでした。
そんな時間も、終わりが近づいています。
もう終わっちゃうね*、なんてしみじみしながら進んでいくと、フィニッシュ間近のメッセージが。
f:id:CHIKUSENDO:20211216191128j:plain
もうすぐなのか。
もうすぐ終わるんだ。
まあ、27時間も経っているのに「もう終わる」とか言っていられるのか、というつっこみはあるかもしれませんが、どんなに長いものでも、終わりが見えると短く感じるものですよね。
たどり着いたフィニッシュゲート。
f:id:CHIKUSENDO:20211216191608j:plain
奥宮さんに迎えられて、昨年のITJ2020以来のフィニッシュゲートをくぐります。
時刻は8:10、フィニッシュタイムは27時間10分23秒でした。
私のエピソードに美はなくとも、有終を迎えることができました。
でも、晩秋の山は美しかったです。
今回、軽く負傷はしましたが、大事には至らず一安心です。
終わりが有れば、始まりも有ります。
次のレースは、UTMF2022。
精進の日々の、始まり始まり。

*終わりも始まりもートレランのおしゃべり考
https://chikusendobo.hatenadiary.jp/entry/2016/12/31/163615