竹仙坊日月抄

トレイルランニング中心の山行記やレース記、その他雑感が主です。藤沢周平が好きです。

好きも苦手もマイナスのフィニッシュー美ヶ原トレイルラン2017レポート6

美ヶ原トレイルラン2017のレポート第6段です。
もういいかげんフィニッシュします。
16:05に大門峠のA6を出発して、フィニッシュを目指します。

雨はすっかり上がって、夏空が見えていました。
もう雨具はしまいましたが、風が少し強かったのでアームカバーを準備して走り出します。
ここまで来れば、今までの膝にやさしく大作戦だとか脚は消耗品だとかのキャッチフレーズが、ほぼ必要のない距離になります。
フィニッシュまでもコース変更があり、殿城山の急登を経て南の耳を回る、霧ヶ峰や車山高原の奥座敷にあたるエリアがカットされていました。
私がこのレースで一番好きな場所に、今回は踏み入れることなく終わります。
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昨年の南の耳。
19:00近くにしてなお明るく、やわらかい緑が目に染みます。
私はこの美ヶ原トレイルランの最終盤に訪れる、南の耳を巡るトレイルの景色を楽しみにしているのですが、実はそのトレイル自体には苦手意識を持っています。
景色は大好きですが、足元は苦手でどうしょうもないのです。
この辺りのトレイルは露出した岩や浮き石が多く、70km以上進んできた足にはとても厳しいのです。
私は昨年も一昨年も、景色に見とれながらも地面の硬さに泣きそうになっていました。
好きだけど苦手という相反するものを、私は南の耳周回エリアに感じています。
でも、今回はそのどちらもないのです。
好きな景色を見られない喪失感はあるものの、苦手なトレイルを走らなくてよいので、気が楽であるのも事実です。
好きも苦手もない、ある意味ニュートラルなフィニッシュへと向かいます。

コースは、殿城山登山口の入口まではいつもと同じルートをたどります。
そして、いつもは左折する殿城山の分岐を直進して、エコーバレースキー場を目指します。
短くはありますが、美ヶ原トレイルランのどのカテゴリーでも、普段通りならば通らない道です。
エコーバレースキー場からは明け方に下った道を登り返すようです。
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私は80kmしか出たことがないので、ここの景色は新鮮に感じました。
林道のような、スキーの林間コースのような、とにかく広くて走りやすいトレイルを、このときは徒歩の急ぎ足で登り返します。
脚は消耗品として大事にしすぎたせいか、いつもは売り切れているはずの脚が、若干売れ残っていました。
また、殿城山の急登がない分、登りに飢えていたとも言えるかもしれません。
この登りは、レース終盤とは思えないくらいに元気に登れました。
スキー場を登り詰めると、明け方に渋滞した急斜面にたどり着きます。
ここはトレイルが崩壊してしまっていて、笹原の中に何本かの副路ができているなど、今後が心配な状況でした。
比較的水分は抜けているものの、泥の斜面なため足場が弱く、体重を足にのせて登ると滑りそうになります。
難儀しましたが、そこさえ抜ければゲレンデトップまではあと少し。
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レンゲツツジと遠景。
もう終わっちゃうな。
若干さびしくなります。

急斜面を登りきると、ブランシュたかやまのゲレンデトップにたどり着きます。
ここから4kmの下りです。
例年、ここだけはかっ飛ばしていました。
かっ飛ばすといってもキロ5分を少し切るくらいの速さですが、ここで走らなきゃいつ走るんだ!と自分に言い聞かせ続けて走るのは、なかなかスポ根感があって楽しいのです。
今年は売れ残っているとはいえ、かっ飛ぶ痛みに耐えられるような足や脚ではなく、自重モードを全開にします。
今年は、安全第一ケガしない、安全第一ケガしない、と呪文やお経のごとく頭のなかで無限ループです。
このレース、実はここまで一度もこけていませんでした。
ぬかるみの泥沼地獄や滑り台のような坂でも、なんとかこけずにやり過ごしてきていました。
最後のゲレンデは泥沼でも滑り台でもありませんでしたが、時折浮き石が草のなかに隠れていてなかなか油断がなりません。
先月の菅平では、フィニッシュまで数キロ地点で石につまづき転倒して負傷しました。
その負傷による故障が癒えず、この美ヶ原では膝にやさしく、自重モードでレースに臨むことになっているのです。
脚力と集中力が落ちる終盤の下りは、転倒リスクが高いです。
また、菅平の轍を踏むわけにはいきません。
安全第一ケガしないの呪文を唱えながら、一歩一歩、忍者ミネヒロで刻みながら下り続けました。
途中に残りの距離表示があり、スピードを例年並みに上げれば14時間を切ってフィニッシュすることができそうでした。
しかし、そこで色気を出して転倒でもしたら、打ち所によっては選手生命の危機にもつながりかねません。
あと、短縮レースで記録を狙ってもなんだかなあ、みたいな思いもありました。
そもそも狙ってなかったのに、あと3kmから狙ってもね…。
安全第一ケガしない、呪文で頭を満たし、一歩ずつ進んでいきます。
まだ明るい時間帯にヘッドライトなしでここを下ったのは初めてでしたが、夕方の空の明かりで走りきることができました。
フィニッシュ手前には、Aさんが待ってくれていました。
挨拶をしてフィニッシュゲートをくぐります。
18:02、14時間2分14秒のフィニッシュでした。
Aさんに写真を撮ってもらったり、かろうじて残っていたふるまいの馬肉うどん(残り10人前と言われました)を食べていたりしていると、なんとAさんが生ビールをご馳走してくれました。
レースの文字通り直後のビールに肝臓はビックリでしょうが、一度もこけなかったことへのご褒美としては何よりもありがたく、最高でした。
ご馳走さまです。
たまらんです。

一度宿に戻り、フィニッシュワークを一通り済ませてお風呂にも入ってから、フィニッシュ会場に戻りました。
帰ってくるランナーをツマミに、もとい応援しながらビールを飲んで、1人で呆けていました。
今回は短縮ということもあり、膝の不調を抱えながらも完走することができました。
所期の目標は達成しましたが、好きな景色を見ることはできませんでした。
タイムは正直言って悪い方ですが、レース中にずっと意識清明でいられるほど体調がよかったことは、大きな喜びでした。
結局、プラスもマイナスもないのかもしれません。

そうこうしているうちに、最終ランナーが帰ってきました。
ビールの酔いでフワフワした頭が、感慨で一杯になります。
あんな雨にもかかわらず、よくやったよ。
最終ランナーのフィニッシュは、祭のクライマックスであると同時に、終わりでもあります。
ヒュ~
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どん
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どど~ん
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本当によくやったよ。