竹仙坊日月抄

トレイルランニング中心の山行記やレース記、その他雑感が主です。藤沢周平が好きです。

比べてみると弁証法ー青梅高水山トレイルラン2017レポート2

今年はハセツネ30Kのエントリーを忘れてしまったため、シーズンインのレースに青梅高水山トレイルランの30kmを選びました。
この大会への参加は5年ぶりでしたが、去年まで4年間出続けていたハセツネ30Kとの違いが興味深く感じられました。

会場の雰囲気については、色々なところで言われていることだと思いますが、ハセツネ30Kはピリピリした印象が年々強くなっています。
ハセツネの予選会的色彩が濃くなってしまったので、必然的に競技性の高いランナーが集うようになってしまったのでしょう。
私のような緩めのトレイルランナーでも、1,000番以内なんて基準を示されたら、周囲と競いたくなってしまいますし、実際競います。
その競技性の高さに加えて、もう一つ会場の雰囲気に繋がっているのは、会場自体の狭さです。
1,700人の参加者に対して、明らかに会場が狭いと思います。
狭さが参加者の神経を余計に昂らせて、ピリピリ感を増幅させているのだと思います。
その点、青梅高水の会場は広々としていて、気持ちに余裕が持てます。
ハセツネ30Kは参加者の数を見直したほうがよいと思います。
ただ、青梅高水の会場の難点は、男子更衣室がないこと。
私はフィニッシュ後の着替えをあきらめたので特に困らなかったのですが、家族連れの応援も多かったので、教育的にはどうかと思いますよっ!
おじさんになりかけた男子でも、恥ずかしいものは恥ずかしいのです。
できたらでいいのでお願いしたいと思います。

ルールに対するペナルティについては、主催者の考え方の違いが面白かったです。
有名な話ですが、ハセツネ30Kの2016年大会で、男女の1位でフィニッシュしたランナーが二人とも必携品不携帯で失格になりました。
青梅高水では、必携品不携帯のペナルティはレースタイムへの5分加算です。
同じ必携品不携帯という違反でも、対応がずいぶん異なります。
これは主催者のレース観に依るところが大きいと思います。
違反者を、競技から排除するか、競技の中で罰するか、の違いといえるでしょう。
安全観の違いとも言えるでしょう。
日本山岳協会の傘下で開催されるハセツネ30Kは、登山者として雨具も充分な水も持たずに山に入ることは許されない、そういう観点だと思いますが、私はその考えに全面的に賛成です。
登山者としての最低限を守れないのなら、山に入るべきではないと思います。
それはひとえに登山者の生命を守るためです。
守れなかった人間の資格を剥奪するのは、この理路を採用すれば当然なのだと思います。
この適用のあり方は、あってはならない、という考えに基づいたものであると言えます。
ひるがえって、青梅高水を主催するKFCの考え方はトレイルランレースの競技としての側面に沿ったものであると思います。
はしょって言ってしまえば、やってはならない、という考えに基づいたものなのだと思います。
やってはならないという考えには、やってしまうという前提が含まれています。
そして、誰かがやってしまったら、誰かがやらせてしまったということなのです。
やらせてしまった側としては、今さら排除せず、やってしまった人に罰を与えることで、やらせてしまった自らも罰することで、違反者も包摂する理路なのだと思います。
排除のハセツネ30K、包摂の青梅高水と言えるのかと思います。

排除と包摂、というと二項対立のようになりますが、私自身は対立よりも、排除(もしくは排除する努力を)して包摂する二階建ての基準を模索したいと考えています。
私の考えではそもそも、あってはならないという理路が成り立たないのです。
人間が言葉で表せる程度のことなど、「ある」から言葉で表せるのです。
この理路は私のオリジナルではなく、漫画家・業田良家さんの『悲劇排除システム』にあった言葉だと思います。
ややこしいのは、あってはならない、という前提が成り立たないのと同時に、あってはならないという前提、は「ある」のです。
端的に言えば、排除も包摂もそれが言葉である以上、あるものはあるのです。
人間の営みは、このらっきょうの皮むきに似た堂々巡りの中にある中庸を探ることで成り立っているのだと、私は思います。

抽象的な話ばかりですが、ルール違反に対して具体的にどう対処するかを考えてみます。
まずはUTMFのように、必携品不携帯のランナーはそもそも出場させないというスタンダードと、しっかりしたチェック体制の確立が必要だと思います。
ハセツネ30Kのチェック体制は、厳格なルールに対しては手ぬるいと思います。
チェックは通りいっぺんです。
通過後に再チェックすることはほとんどありません。
あってはならない、に基づいた対応は、やらせてはならない、という規範に結び付かないのです。
そして、やらせてはならないようにしても、やるやつはやるのです。
そのやってしまった彼や彼女も、またレースの一部であると私は思います。
排除せずに、適切に罰を与えたいと思います。
青梅高水は5分のペナルティタイムを「バンバン付けます!」と開会式で明言していました。
それに倣うと、ハセツネ30Kの違反行為には、順位を男子に1,000番と女子に100番追加すればいいのだと思います。
こちらもバンバン付ければいいのです。
予選会と化したハセツネ30Kにおいて、本戦出場権を自動的に剥奪することは、違反者に対して大きなプレッシャーになると思います。
完走した事実は認めても、本戦の優先出場権は認めない。
排除と包摂の弁証法、もしくはバンバン付けます大作戦です。
私なりの見解です。