竹仙坊日月抄

トレイルランニング中心の山行記やレース記、その他雑感が主です。藤沢周平が好きです。

雨上がりの夜空にーUTMF2016レポート6

UTMF2016振り返りの第6段です。
いい加減フィニッシュしないといけないですね。
実はもうフィニッシュまで2kmくらいのところまで来ているのですが、振り返れば振り返るほど色々な考えや思いに気づかされ、なかなかフィニッシュできません。
特にあの大混乱(私自身の…)については、別にまとめたいくらい、印象的な体験でした。
でもさすがにフィニッシュします。

フィニッシュまで残りわずかという地点で、ロストしたと思い込んでしまった周りのランナーが、集団で引き返していく場面に遭遇しました。
私はとっさの判断ができず、一人取り残されました。
事態を把握することができなかったのです。
飛ばして走ってきた興奮と、近づいてきたはずのフィニッシュが遠のく絶望感とがないまぜになって、頭が大混乱しています。
こうなったら進むも退くもなく、何か決断すること自体が危険です。
仕方ないので、しばらく何もしないで立ち止まることにしました。
雨が強くなってきたので、とりあえず木陰に入って一息入れます。
とりあえず興奮は収まりました。
また、残してもしかたないので、ジェルも食べてしまいます。
ランナー達が去っていった方角を見ると、今さっき下ってきた、泥の登り坂があります。
こんなの登りたくないよ…。
引き返すことはしたくありません。
とりあえず地図を見て本部に電話し、コース変更の有無を確認することにしました。
しかし、本部に電話してもこちらの現在地を伝えられず、わかったら電話してね、みたいな感じで通話が終わりました。
スマホが通話でふさがってるので、GPSでの現在地把握ができなかったのです。
地図を見ても現在地はわかりません。
しかも、GPSを呼び出しても動作しません。
無力感で途方にくれかかっていると、ランナーが二人、坂を下ってきました。
このお二人が現れたことは、本当に天の恵みのように思います。
心細さが混乱に拍車をかけていたので、誰かが来ただけで嬉しくなりました。
お二人に事情を説明すると、立ち止まって一緒に対応を考えてくださいました。
お二人も、なんで集団で引き返してるんだろうとは思ってたそうですが、自分達はついていかずに進んできたそうです。
一人のかたにはスマホで現在地を表示してもらい、再度本部に電話しました。
本部とのやり取りで、確信は持てないものの、フィニッシュを過ぎてしまってロストしてる可能性は低いことはわかりました。
少しの間3人で相談して、引き返さずに進むことにしました。
今思い返すと、3人で相談しているというよりも、不安で混乱していた私を、お二人が見守ってくれていたということなのかもしれません。
元々お二人は引き返さずに進んできていたのです。
私が引き止めて付き合わせてしまったわけです。
その点申し訳なく思いますが、やはり感謝の気持ちが大きいです。

3人で進み出してすぐに、泥の坂を下りきり、草原の中のトレイルに合流しました。
A3のはずだった麓への道標とともに、UTMFのコース案内板もありました。
案内板には、UTMF参加者が持っているコースマップ上に振られている番号が書いてあります。
スタッフはいません。
コースは間違えていない。
ただ、フィニッシュを過ぎてしまっているのではないかという疑念も、払拭しきれてはいません。
でも進みます。
納得して進むことを選んだのです。
間違えていても仕方がない。
制限時間まではまだたっぷり余裕があったので、戻ればいいだけのことです。
そこまで開き直ることができていました。
3人とも、時折言葉を交わしながらも、早めのペースで走っていきます。
同行三人て言葉はありませんが、そう呼んでもいいような気がします。
そうして草原のトレイルを1kmくらい走ったところで、朝霧高原への分岐点にたどり着きました。
スタッフが誘導しています。
ロストしてない!
やっと確信できたところで、3人とも安堵と喜びの笑顔です。
周りのランナーが引き返してからここまで、長くても15分くらいしか経ってないと思います。
それでもことがことなだけに、非常に長い時間のように感じていました。
私は、当初の混乱からは回復したものの不安は感じ続けていたのですが、それももう終わりです。
後はフィニッシュに飛び込んで、フィニッシャーベストを着るだけです。
ニヤニヤしながら残りのトレイルを走りきり、国道を渡って朝霧高原道の駅に入ります。
このとき雨は小降りになっていました。
フィニッシュ前の取り付けルートには、サポーターの友人が待ってくれていました。
間隔がすごく空いてるから心配したよ、前が引き返しちゃったんですよね、というような会話を交わしてからフィニッシュに向かいます。
一緒に進んできたお二人とは、ゲートに向かう途中で労いあって別れました。
お二人がそれぞれフィニッシュするのを見送ってから、私もフィニッシュしました。
UTMF2016は、7時間46分7秒の旅でした。
短いのに長く、濃厚でした。
また、100マイラーにはなれなかったけど、UTMFのフィニッシャーであることは確かです。
フィニッシャーベストを着ることができます。
ベスト違いのベストレース、本当によかった…。

福田六花さんとハイタッチしてから、フィニッシュ後のエイドに向かうと、友人が先回りして席を取っておいてくれたり食べ物をもらってきてくれたり、世話を焼いてくれました。
これも非常にありがたかったです。
この友人は表彰台に乗ることも多い実力者で、UTMFも過去に30時間を切って完走しています。
当日のサポートだけではなく、レースのだいぶ前からアドバイスをもらっていました。
感謝の気持ちでいっぱいです。

さて、食いしん坊なトレイルランナーである私は、エイドの食べ物を全種類食べて、気に入ったものはおかわりして、大満足でした。
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A2でゆば丼をおかわりしてからまだ2時間しか経ってませんが、空腹は空腹なのです。
なんせ大混乱の末のフィニッシュですから、頭にブドウ糖を回さないことには諸々始まりません。
記憶が定かではないのですが、あんころもちが美味しかったような気がします。
食べている間に、引き返していったランナー達もフィニッシュしたようでした。
早く帰ってこれてよかったなと思います。
また、以前レースで相部屋だった方がフィニッシュしてきて、おしゃべりしたり労いあったりしながら、少しずつレースモードが終了していくのを感じていました。
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ひとしきり食べて着替えた後、夜の0時近くに出発して、友人の車で河口湖に戻ります。
朝霧高原にいる間、雨は断続的に、どしゃ降りになったり小降りになったりを繰返していました。
本栖湖方面に国道を走っていると、ロード区間を走るランナー大勢とすれ違いました。
まだ制限時間までは余裕があります。
雨に負けないで、道に迷わないで、無事にフィニッシュしてもらいたいなと、自然と思えてきました。
運転中の友人も車を止めて窓を開け、がんばれー!と叫んでいました。
私のレースは終わってもUTMF2016はまだ終わってません。
私は最後の最後に大混乱に陥りましたし、引き返したランナー達はもっと苦しんだと思います。
そんなことにならないように、とにかく無事であってほしいと思いました。

河口湖に戻る途中、雨が止み、雲がはれている時間帯がありました。
もう記憶が曖昧なのですが、月が少しの間だけ出ていたような気がします。
月夜の空の色が私は好きなのですが、この夜は、月が出ていたことぐらいしか、それも曖昧にしか覚えていません。
気になって調べてみたところ、もし、2016年9月23日の夜に、月が本当に出ていたとしたら、下弦の半月だったようです。
雨上がりの夜空に、ジンライムみたいなお月様、そのものだったようです。
こんな夜に♪…。