竹仙坊日月抄

トレイルランニング中心の山行記やレース記、その他雑感が主です。藤沢周平が好きです。

長門牧場のマイナス6℃ー美ヶ原トレイルラン2017レポート4

美ヶ原トレイルラン2017レポートの第4段です。
本来ならばA4だったはずの和田宿で脚と足のケアのため、30分の大休止を決定しました。

ここまで32,3km走ってきて、足回りに痛みが出てきました。
私はやや内股でいわゆるオーバープロネーション気味の着地をするため、内くるぶし周辺を痛めることが多いのです。
この日も長門牧場からの下りで痛みが強くなり始め、アキレス腱にまで痛みが及んで来ていました。 バドミントン部だった高2の時に同じ故障をやらかしているのですが、その時の痛みというか強い違和感がよみがえっています。
エイドでともかく、名物の蕎麦とすあまをいただいてからトイレを済ませて、ケアタイムに入ります。最低でも10分はマッサージすると決めて、脚と足のケアをしました。
ケガも明けていないのにレースで走ると、それなりの無理があるようで、硬い脚と足の筋肉を押す手がだいぶ疲れました。
しかし、痛みがあるとはいえ、残り時間は10時間以上あり、歩き通してもフィニッシュはできます。
途中までちらついていたリタイアの選択肢を、ここで捨て去りました。
水を補給・補充して、雨の様子を確かめてからいったん雨具を脱ぎましたが、直後にザーッと降りだしたため慌てて着直すようなこともありました。
このあと長門牧場まで、雨具の着脱を繰り返すこととなるのです。

9:40に和田宿を出発して、すぐに水沢峠越えにかかります。
水沢峠の山道は標高差100mほどですが、距離が短いため急登・急降下となります。
下の方の沢と並行する区間は斜度がさほどきつくないのですが、沢から離れて道なりに左へ向かう所から勾配がきつくなります。
それでも距離は短いため、すぐに登り終えて少し尾根を走ると下りに差し掛かります。
今年はこの下りの途中で試練がありました。
尾根から斜面をトラバースして下りる急勾配の道があるのですが、この道が泥沼化してほぼ崩壊しているのです。
滑落上等なトレイルコンディションで、難儀したランナーで小さな渋滞ができていました。
転ぶ人や尻餅をつく人が続出して 軽い地獄のようでしたが、何かのアトラクションに見えなくもありませんでした。
泥坂地獄とかマッディスライダーとか、勝手に名前をつけて楽しんでしまえばいいのに。
でも、こけたら悲惨きわまりないので、少々不謹慎かもしれません。
ヤマケンの、俺は忍者!を思い出してこけないようにステップを刻みながら、泥坂地獄(仮)をなんとか乗り越えました
そこからは、ややまともな斜面を入大門の集落に向けて下りていきます。

本日2度目の通過となる入大門の集落に入り、長門牧場への林道に向かいます。
途中で民家の雨樋から落ちる雨水を借りて、靴の泥を落としたり手を洗ったりして、少しだけリフレッシュしました。
雨は降り続いていて、12時くらいにピークを迎えるとの予報もありました。
往路の印象では、木々である程度雨がしのげそうに思えたため、なるべく早く林道に逃げ込んでしまいたい気持ちがありました。
柄になく急ぎます。
ちなみに、入大門から林道入口までのこの区間は、昨年熱中症ギリギリの状態でフラフラになって歩いていた区間でした。
あまりの辛さに、林道の入口でひっくり返ってしまった思い出があります。
暑かったのです。
昨年のレースの最高気温は29℃(諏訪の記録)で、標高の低い和田宿~入大門は、蒸し暑くてとても辛かったのです。
今年は23℃(諏訪。予報は26℃)で、しかも雨、ひっくり返ったらシャワーを浴びるような感じになったでしょう。
林道の登り返しにさしかかった時刻は定かではありませんが、今年は意識ももうろうとせずに進むことができています。

この林道の登りは、長門牧場まで10kmと言われています。
傾斜は緩いので走ろうと思えば走れるのですが、今日の脚は消耗品のため、なるべく走らずに進みます。
この膝にやさしく大作戦は、なかなかうまくいっていましたが、林道の歩き時間が長くなると、別の問題が起きてきました。
お尻の筋肉に張りが出てきてしまったのです。
この日は試みとして、鉛直意識の骨盤始動歩行を徹底していました。
山と渓谷の膝特集の号(たぶん2017年3月号)で、小川壮太さんが解説していた歩き方です。
ここ数ヵ月実践していた方法でしたが、この日も地道にやっていました。
楽に脚が運び出せてよかったのですが、さすがに10km近くも歩き続けると、お尻の筋肉がかなり張ってきてしまいました。
すると脚の運びも悪くなります。
尻も消耗品のようです。
しかたないので、時おり走ってお尻の筋肉をほぐしながら進みました。

和田宿から2時間近く経ったこの頃になってくるとだいぶ集中力が落ちて来るため、なにか食べたり、写真を撮ったり、無駄に雨具の着脱をしてみたり、あらゆる手でリフレッシュを試みます。
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花を撮ったのも半分は刺激を入れるため。
私の場合、単調な作業の繰り返しで集中力を損ねる傾向があり、心身に異なる刺激を入れないことには、パフォーマンスを取り戻すことができなくなります。
この日のそのあたりのコントロールは、そこそこうまくいっていました。

本日2度目となる長門牧場林道の分岐を越えると、長門牧場に入ります。
この頃になると、内くるぶし回りの痛みが強くなり出しました。
牧場の引き回しコースと私は呼んでいますが、目の前に見えているエイドまで、4,5km遠回りさせるコースレイアウトは健在でした。
せっかく短縮なんだからここも縮めようぜと思いながら、ゆっくり走ります。
引き回しコースの前半は下りのため、くるぶし、アキレス腱、膝を気遣いながらゆっくり進みます。
そして、馬。
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馬の右奥に見えている建物辺りがエイドなのですが、そこまでは牧場の縁に沿って大回りします。
後半は登りなので歩きになりますが、馬からエイドまで30分弱かかりました。
長門牧場のエイドインは13:15、和田宿出発から3時間35分かけての到着でした。

実は今回、一番の楽しみにしていたのが長門牧場のソフトクリームでした。
昨年レース中に親切な方に教えてもらって食べた味が忘れられず、今年は割り引きになるモンベルの会員証まで持ってここまできました。
ところが、今年の長門牧場は肌寒く、とてもソフトクリームを食べる気分にはなれませんでした。
体温のコントロールも不安定になりそうだったため、今回はパスしました。
去年よりもマイナス6℃の影響はここに出ました。
とは言えここはエイドステーション、お楽しみは色々とございます。
私はここの飲むヨーグルトと牛乳が好きです。
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いつも楽しみにしてます。
出発の準備の前にアルパカの写真を撮りました。
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暖かそうです。
エイドアウトの際に雨具を脱いだら、すぐに降り出しました。
また雨具を着て出発しました。
13:35、エイド滞在は20分。
出発直後に牛。
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ここの牛とは3年連続のお付き合いです。
そして、霧の中へ。
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和田宿までのマイナス2時間ー美ヶ原トレイルラン2017レポート3

美ヶ原トレイルラン2017のレースレポート第3段です。
短縮された73kmのレースですが、何せ美ヶ原に行かないもので、いつもとは様相の違うレースとなりました。

スタート直後のブランシュたかやまのゲレンデを登りきると、本来ならば右に曲がる道を、コース変更のため左に曲がりました。
序盤は45kmのコースをたどって行くのですが、これまで出場したことがなかったので、どんなコースかが全くわかりません。
また、フィールズの主催する大会はエイド以外に距離表示がほとんどないため、自分の位置すらよくわからないのですが、それも仕方ありません。
ゲレンデを登りきったかと思うと、すぐに急な下りの山道に入ります。
足場が悪く下り渋滞が起きていましたが、この下りはさほど長くなく、すぐにエコーバレースキー場に向かう林道のようなコースに入り、途中からゲレンデを下ります。
この日は膝のケガが気になっていたため、下りは自重する方針でした。
いくら抜かれてもいいので、山の傾斜で自然と出るスピード以上は出さないことにしていました。
脚は消耗品であること、特に膝が消耗しないように、レース中ずっと意識しなければなりません。
「膝にやさしく」大作戦です。
私はレース中に意識しなければならない課題があるときには、適当なフレーズを作って頭の中で延々リピートさせています。
膝にやさしく大作戦では、ブルーハーツの「人にやさしく」のメロディーを借りて「膝にやさしく♪」と口ずさんだり、「消耗品、消耗品」とひたすら呟いたりしていました。

前半のコース変更区間は大半が未舗装の林道で、しかも下り基調で走りやすく、また、走らされるコース設定になっていました。
走れるということは膝への負担が大きいということでもあり、常に飛ばさないことを心がけて、時には意識的に歩きを入れて進みました。
本日脚は消耗品につき、大事にしなければならないのでした。
最初のエイドは何km地点なのか正確に知りませんが、恐らくは12~15kmだったのだと思います。
変更されたコースについては情報が少ない上に、距離については情報が錯綜しており、何が正しいのかわかりませんでした。
とりあえずこのエイドには、和田宿まで20kmと表示されていたので、それを目安に前に進みます。

コースはその後も傾斜の緩やかな林道で、まあ走れること走れること…。
調子がよければイケイケで走れますが、この日は自重モードしかモードを用意していないので、マイペースあるのみでした。
この長門牧場近くまでの林道は、中央分水嶺の山腹をトラバースするように拓かれています。
途中何度か「○○隧道」という標識があり、トンネルでもあるのかと思って覗いてみると、山腹から用水路が出入りする隧道でした。
ある隧道では山腹から水が出てくる、他の隧道では水が山腹に吸い込まれていく、初めて見る光景でした。
治水とか利水とか目的は大きくとも、こんな山の中の地道な営みで支えられているのだと思うと、ふと感慨深くなります。

雨がいつ頃から降り出したか記憶が定かではありませんが、最初のエイドを過ぎて少し走ってからだったでしょうか。
時刻で言えば、7:00頃にはもう雨具を着ていたような気がします。
土砂降りレースのUTMF2016で学んだことの一つに、雨が降りだしたら雨具の装着をためらわないというものがあります。
普段の私はだいぶめんどくさがりな人間で、少々の雨ならば持ってる傘も開かないくらいです。
UTMF2016でもレース中に雨がぱらついた瞬間があったのですが、森の中だし大丈夫だろうとたかをくくっていたところ、すかさず降り出した本降りの雨にやられてしまい、慌てて雨具を引っ張り出して難を逃れるという、拍手をもってお間抜けな経験があります。
そのとき、私の前にいた香港の参加者の方が、とてもスマートに雨具を装着していたのが強く印象に残っています。
たかをくくらずに、様子見段階で雨具を着ること。
UTMF2016で得た教訓の一つです。

ということで雨具のジャケットのみ着て、林道をひた走ります
今回はサロモンのボナッティをレース装備にしましたが、ボナッティはストレッチがすごいのです。
装備パンパンのリュックを背負った上から着ても、ジッパーを首まで上げることができます。
長門牧場との分かれ道にさしかかると、いったん和田宿に向かって林道を下ります。
この下りだけで10km近くあるはずで、和田宿のエイドまではさらに、ロードの水沢峠越えをしなくてはなりません。
脚の消耗を気にしてゆっくり下ります。
すると、前から林道を登ってくるランナーがいます。
優勝した東徹さんです。
この林道はピストン区間になっており、速い選手とすれ違うのでした。
すれ違いざま思わず、ナイスラン!と声をかけると、東さんもファイト!みたいな言葉で声をかけてくれました。
そのあとは大瀬さん、小川壮太さん、2位になった矢嶋さん、望月将吾さん、山田琢也さん…。
さすが日本選手権、そうそうたるメンバーとすれ違い、声をかけ、かけられしているうちに、気分が高揚してしまいました。
予想よりもかなり早いタイムで林道を下りきり、入大門の集落を抜けて水沢峠を目指します。

入大門に着くと、雨がかなり強くなっていました。
水沢峠のトレイルとロードの分岐点辺りで、Aさんとすれ違うことができました。
Aさんは私の脚を気遣ってくれました。
友達だから当たり前なのかもしれませんが、その当たり前ができるAさんの優しさが素晴らしいのだと思います。
ロードの水沢峠は、一言で言うとダラダラでした。
なんだか長いのです。
水沢峠の登山道は急な登り下りを一本ずつこなせばよいのですが、ロードの水沢峠は特に登りがダラダラ長く、先が見えずに高揚した気持ちも冷めていきます。
入大門から和田宿までは4km強だと思いますが、峠のロードの下りもあり、なかなか脚に負担のかかる区間でした。
この頃になると和田宿に入れる時間がほぼ読めてきます。
5時間を超えそうですが、昨年は7時間かかったのでマイナス2時間です。
制限時間に変更はないので、2時間がそのまま余裕になります。
正確にはわかりませんが5kmほどの短縮と、コース変更による山岳区間のカットの影響です。
マイナス2時間は大きいなと思いながら和田宿に到着しました。
スタートから5時間10分後、9:10頃のエイドインです。
やさしくしてもらった膝たち。
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私はケガのとき以外は膝のテープは使いませんが、今回は過保護なくらいに施しています。
右膝には軽い違和感がありましたが、まだ問題なさそうです。
ただ、両足の内くるぶし周辺と左足のアキレス腱に軽い痛みが出ていたため、ケアのために大休止することにしました。
30分の和田宿滞在を自分に義務付けます。

78-5=73km…長いよ!ー美ヶ原トレイルラン2017レポート2

美ヶ原トレイルラン2017のレポート第2段です。
長いよ!というのは私の記事のことではなく、スタート前にレースに対して抱いた印象です。

前日の説明会も終わり、Aさんとは別々の宿に戻って準備をしたり相部屋の人とおしゃべりしたりしながら、床につきました。
20:30くらいには消灯したのですが、私は悪夢を見たり急に体が熱くなったりして、あまりよく眠れませんでした。
しっかり眠れたのは4時間くらいでしょうか。
2:00に起床して朝食をとり、テーピングや食料などの準備を完了して宿を出たのは3:50頃、スタート10分前でした。

主催者からのメールで、コース変更になったことは把握していました。
さらに、距離の短縮もあるらしいことも小耳にはさみました。
雨はまだ弱いものの、どうせやまないのなら、どうせ短縮するのなら、思いきって短くしてくれてもかまわない、私自身はそんな気持ちでした。
UTMF2016で、169kmが44kmに短縮されたという経験が私にはあります。
悪天候の中で参加者の安全を確保するためならば、受け入れる用意はできています。
125kmオフに比べれば、どんな短縮でも上等だ!どんとこい!、な心持ちでいました。
発表された短縮距離は5km…。
え、縮めるの短くない…?
美ヶ原トレイルラン80kmカテゴリーの実際の距離は78km、5km引いて73km…。
長いよ!
すっかり短縮レースモードだった私は、45kmカテゴリーと同じくらいの距離かなと思い込んでいましたが、73kmかよ。
長いよ!
思わず発した声の通りに文字にすれば、ナゲエヨ!
覚悟が裏目に出たナゲエヨ!、長いよ!です。
前日に友人Aさんが言っていたこと、変更・短縮って聞かされたあとにもとの距離と言われても長く感じるよね、そのときの情景がよみがえります。

実際のコースマップは以下のようになりました。
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赤い線が変更後の80kmのコースです。
私の好きな南の耳周辺は、コース変更に伴いカットされました。
南の耳どころか、霧ヶ峰と美ヶ原エリアがごっそりカットになりました。
コースは長門牧場に向かう林道メイン、中央分水嶺に沿うようなコースとなりました。
45kmカテゴリーのコースに、長門牧場から和田宿までの往復28kmをプラスした73kmと考えれば大体正解だと思います。
「美ヶ原トレイルラン」から霧ヶ峰はおろか「美ヶ原」までをも引いてしまう大胆な発想でしたが、私はこの判断は最善の選択のように考えています。
霧ヶ峰や美ヶ原は2,000m近い高原の草原地帯で、樹木がなく、風雨を遮ることができません。
長時間の雨が予想されるレースで、選手やスタッフの安全を確保することができる地帯ではありません。
そこに行かない判断は非常に適切だと思います。
また、今回の80kmカテゴリーはウルトラディスタンスのスカイランニング日本選手権でもありました。
そして来年の世界選手権の選考レースでもあるため、短くしすぎることはできなかったのだと思います。

そう考えると、私のナゲエヨは、ただもっと短くしてよ、という願望に基づくものでしかないのですが、膝のケガがなければまた違った思いを抱いたのかもしれません。
ケガの回復が思わしくないままレースを迎えて、気持ちが弱っていたのです。
それでも、73kmのレースならば、私はその道を進むだけなのです。
ナゲエヨ~♪
と思いつつも、Aさんに一声かけてからスタートしました。
ヘッドライトの光の中に吸い込まれてゆきます。
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この記事もやっぱりナゲエな。